私たちはクリスタルリバーを取材の拠点にした。そして、マナティーに関連のある科学、環境、歴史について調べているうちに、科学者でナショナル グラフィックのエクスプローラーでもあるジェイソン・ガリーの撮った写真を見つけた。彼はしばらく前からマナティーを取り巻く問題を調査していたのだ。編集部に相談し、彼にもチームに加わってもらうことにした。ジェイソンは水中や空からの撮影を担当し、マナティーの暮らす水中世界を見せてくれた。
一方、ジーナと私は陸の世界に目を向け、マナティーの文化にどっぷり浸って取材した。この生き物は人々に愛されながらも、人間の営みによって存在が脅かされている。
私たちはフロリダ州各地を回り、さまざまな思いを抱いている人たちの話を聞いた。愛好家にとって、マナティーは思わず抱き締めたくなるような愛らしい動物だが、マナティーの調査や保護活動に取り組む専門家にとっては「炭鉱のカナリア」のようなものだ。マナティーそのものが深刻な危機にさらされているだけでなく、周囲の環境が危機的状況にあることを真っ先に知らせる動物でもある。私たちがまとめた特集はナショナル ジオグラフィック日本版2023年1月号に掲載される予定だ。
旅の終わりに、ジーナと私は再び防潮堤に座り、マナティーのことを考えた。
私はマナティーに導かれて、自分が暮らすこの場所の、これまで知らなかった歴史を目にすることになった。取材中ずっと、マナティーは鏡のような役目を果たし、彼らに出合った人々、彼らが暮らす水域、そして私たちすべてを支える環境と私たちの関係を映し出してくれた。
マナティーは、水中では草食哺乳類の一風変わった小さなグループの一員で、生態系に欠かせない役割を果たしている。陸では人々を魅了し、人間性の最善の部分を映し出す、カリスマ性を秘めた動物だ。
そして、マナティーは、はるか昔の記憶を今に伝える太古の生き物でもある。
(文 エリカ・ラーセン=写真家、日経ナショナル ジオグラフィック)
[ナショナル ジオグラフィック 日本版 2022年12月号の記事を再構成]