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アルコールによる「2次的な影響」とは?

アルコールは人の免疫にさまざまな悪影響を及ぼすことが分かった。だが恐ろしいことに、安部さんは、「アルコールはさまざまな疾病につながり、それによる2次的な免疫への影響のほうが、これまで解説してきた直接的な影響より深刻である可能性もある」と言う。いったいどういうことなのだろう?

「2次的な弊害とは、分かりやすく言うと、アルコールの慢性的な飲み過ぎ、おつまみの食べ過ぎによって、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病の罹患リスクが上がったり、肝機能が低下したりすることが、免疫にも悪影響を及ぼすということです」(安部さん)

確かに、酒を飲み過ぎたとき、アルコールが免疫システムに直接的に悪影響を及ぼしたとしても、それは一時的なもので、二日酔いがよくなっていくように、免疫システムのほうも次第に回復していくのかもしれない。それに対して、長年の飲酒により生活習慣病になってしまったら、今度は慢性的に免疫力を低下させることにつながる。

アルコールが免疫に及ぼす“2次的”な影響

アルコールの飲み過ぎは糖尿病、高血圧、動脈硬化、肝臓の機能低下、がんなどを誘発する。こうした病気に罹患している人は免疫機能が低下していて、新型コロナウイルス感染症が拡大する状況においてリスクに直面していると言われている。ではいったい、どのような仕組みでこうした病気が免疫に影響を及ぼすのだろう?

「考えられるのは、『血流』です。糖尿病では高血糖により血液がドロドロになることで、また動脈硬化では血管が硬くなることで、血流が悪くなります。血流が悪いと、必要な免疫細胞が、体の必要な場所へと届かなくなってしまうのです」(安部さん)

どんなに高度な免疫システムがあっても、「血流」という弱点があったとは……。近年、血管年齢の重要性が叫ばれているが、血管の状態や血流は免疫にも大きく影響しているようだ。それでは、肝臓の機能低下についてはどうだろうか。

「アルコールが肝臓で代謝されるとき、その過程で人体に有害なアセトアルデヒドが生成され、さらにそれが無害な酢酸に分解されます。大量の飲酒を続けていると、肝臓がアセトアルデヒドを分解しきれなくなり、今度はアセトアルデヒドによって肝臓の細胞が攻撃されてしまいます。これによって肝機能が低下し、免疫も落ちてしまうのです」(安部さん)

肝臓には、食事で得られた栄養を体が使いやすいように作り直し、必要に応じて供給する役割がある。この機能が低下すると、免疫細胞や抗体など、免疫システムに必要な要素が不足してしまう。また、アルコールや薬剤、体内で作られるアンモニアなどの有害物質を代謝するのも肝臓の役割だが、こうした働きが鈍って有害な物質がたまると、免疫細胞の機能に悪影響を及ぼすことも考えられるという。

免疫を低下させないためにも、病気のリスクを上げてしまうような飲み方は控えなければならない。しかし「まったく飲まない」というのは、酒好きにとってかえってストレスになってしまう。

「おっしゃる通り、お酒好きの方にとって、断酒はかえってストレスになりますよね。ストレスは免疫に悪影響を及ぼしますので、飲み方に工夫をされるとよいと思います。免疫の第1段階である自然バリアの粘膜を傷めないよう、のどがチリチリするようなアルコール度数の高いお酒は避けるか、炭酸水や水などで割って飲むことをお勧めします。また、生活習慣病やがんなどのリスクを上げないためには、飲み過ぎないようにしましょう。休肝日も取り入れてほしいですね」(安部さん)

安部さんの話をまとめると、酒は休肝日を取り入れつつ、適量を守る。それに加え、栄養バランスの取れた食事をとり、適度な運動をして、よく寝ることが大切だ。ごく当たり前のことと思われるかもしれないが、これが免疫のためにいい生活習慣なのである。

(図版制作 増田真一)

名医が教える飲酒の科学

著者 : 葉石かおり
出版 : 日経BP
価格 : 1,650円(税込み)

葉石かおりさん
酒ジャーナリスト/エッセイスト。1966年東京都練馬区生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業。ラジオリポーター、女性週刊誌の記者を経てエッセイスト・酒ジャーナリストに。「酒と健康」「酒と料理のペアリング」を核に執筆・講演活動を行う。2015年に一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーションを設立。国内外で日本酒の伝道師SAKE EXPERTを育成する。著書に『酒好き医師が教える最高の飲み方』『日本酒のおいしさのヒミツがよくわかる本』ほか多数。

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