世代を超えた記憶
クラックシードは今なお、世代を超えた結びつきと地元に対する特別な思いを支えている。
地元の常連客である90歳のフィリップ・K・ホーさんは、乾燥した果物のような、中国の伝統的なクラックシードのお菓子を好む。中国系の家庭に育ったホーさんは、幼い頃にオアフ島東部のカイムキから引っ越してきた。子どもや孫は今もカイムキで暮らしている。
ホーさんの娘で55歳のルネー・テンガンさんは、自分の子どもたちは40年前にはなかったグミやキャンディに夢中だったが、もちろんクラックシードを食べて育ったと言う。
ルネーさんの息子、27歳のジャレン・テンガンさんは、この一家の第4世代で、中国系と日系の先祖を持つ。子どもの頃は、毎週金曜日にしょうゆ味のおかきを兄弟と分け合った。コーラを凍らせて作ったスラッシーを飲んでいたが、これにリーヒンのジュースを混ぜてもっと刺激を強くしようと母親にねだったものだった。日曜日に祖父母の家に行き、大人たちがおしゃべりをしている間、岩塩で漬けた梅の果肉をしゃぶっていたことを覚えている。
12年に、ジャレンさんは大学進学のためワシントン州に引っ越した。ジャレンさんが帰省するたび、母親のルネーさんはおかきやリーヒングミ、するめなどの大袋を息子のスーツケースに詰め込んだ。
リーヒングミや似たようなお菓子はガソリンスタンドやドラッグストアでも簡単に手に入るが、テンガン家のように昔からここに住む多くの人にとって、クラックシード・ストアに行くことは、元気を取り戻し、家族の絆を思い出すことでもある。
(文 Kathleen Wong、訳 山内百合子、日経ナショナル ジオグラフィック)
[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年5月23日付]