高血圧の人 正常な人に比べ大腸がんのリスク17%上昇
高血圧のある人は大腸がんを発症するリスクが高いことが、200万人を超える日本人の診療や健診のデータの分析で明らかになりました[注1]。収縮期血圧が140mmHg以上、または、拡張期血圧が90mmHg以上の、未治療の高血圧がある人の大腸がん発症リスクは、血圧が正常な人に比べて17%上昇していました。
高血圧と大腸がんの関係を指摘する研究はこれまでも複数あった
高血圧と大腸がんは一見無関係のようにも見えますが、両者の関係を検討する研究は、これまでに複数行われています。そうした研究を25件集めて、報告されていたデータを合わせて分析した研究では、高血圧患者の大腸がんリスクは、正常血圧の人たちに比べ15%高いことが示されていました。
しかし、高血圧と大腸がん発症の関係を調べるにあたっては、結果に影響を及ぼす可能性のある要因、例えば、血圧を下げる薬(降圧薬)の使用の有無や、大腸がんリスクを高める疾患(大腸ポリープ、炎症性腸疾患など)の存在、高血圧と大腸がんに共通する危険因子(肥満、糖尿病など)の有無などを考慮する必要があります。
これまでの研究はそうした点に十分配慮していなかったことから、東京大学医学部附属病院循環器内科の金子英弘氏らは、200万人を超える日本人を対象として、未治療の高血圧患者と正常血圧の人たちの、その後の大腸がん発症率を比較することにしました。さらに、肥満や糖尿病などではない成人においても血圧と大腸がんの間に関係が見られるかどうかを検討しました。
60を超える健保組合のレセプトデータや健診データを分析
著者らが利用したのは、日本国内の60を超える健康保険組合から提出された、入院、外来、調剤を含む診療報酬明細書(レセプト)と健診データを登録しているデータベースです。ここに2005年から2018年までに登録されていた20歳以上の患者のうち、降圧薬使用者、大腸がん歴のある患者、大腸ポリープまたは炎症性腸疾患の患者を除外し、健康診断時の血圧値が記録されていた222万112人(平均年齢44.1歳、男性が58.4%)のデータを得ました。
これらの人たちを、米国心臓協会/米国心臓病学会の基準に基づいて、以下の4群に分類しました。
収縮期血圧120mmHg未満、かつ、拡張期血圧80mmHg未満
正常高値 34万1273人
収縮期血圧120~129mmHg、かつ、拡張期血圧80mmHg未満
ステージ1の高血圧 46万6298人
収縮期血圧130~139mmHg、または、拡張期血圧80~89mmHg
ステージ2の高血圧 24万7734人
(※日本高血圧学会が定義する「高血圧」に該当)
収縮期血圧140mmHg以上、または、拡張期血圧90mmHg以上
正常血圧の人たちと比較すると、正常高値、ステージ1、ステージ2と、高血圧が進むにつれて患者の年齢は上昇し、男性の割合が高くなり、喫煙習慣、飲酒習慣のある人が増え、BMI(体格指数)、腹囲、血糖値、LDL(悪玉)コレステロール、中性脂肪のレベルが上昇していました。一方で、HDL(善玉)コレステロール値は低くなっていました。
[注1]Kaneko H, et al. J Am Heart Assoc. 2021 Nov16;10(22):e022479. (https://www.ahajournals.org/doi/abs/10.1161/JAHA.121.022479)
2005年1月から2018年8月までの大腸がん発症の有無を調べたところ、平均1112日の追跡で、6899人が大腸がんを発症していました。1000人-年あたりの大腸がんの発症率は、高血圧のレベルが高い集団ほど高くなっていました(表1)。
表1 血圧と大腸がんリスクの関係
ステージ2の高血圧患者では大腸がんリスクが17%上昇
高血圧と大腸がんの関係に影響する可能性のあるさまざまな要因を考慮した上で、正常血圧のグループと比較した大腸がん発症リスクを分析したところ、ステージ2の高血圧患者で17%の上昇が認められ、その差は統計学的に有意であることが明らかになりました。男女別に分析すると、男性では、ステージ1以上でリスク上昇は有意になりました(ステージ1で10%上昇、ステージ2で24%上昇)。ただし女性では、正常血圧群との差は有意になりませんでした。
続いて、血圧が10mmHg上昇するごとの大腸がんリスクの増加率を推定したところ、収縮期血圧の場合は10mmHg上昇あたり4%、拡張期血圧では10mmHg上昇あたり6%上昇することが示されました。男女別に同様の分析を行ったところ、男性では、収縮期血圧が10mmHg上昇あたり6%、拡張期血圧が10mmHg上昇あたり7%のリスク上昇が認められ、女性では、拡張期血圧のみ、大腸がんリスクの4%上昇と関係することが示されました。
著者らは、大腸がんと高血圧に共通する、肥満や糖尿病などの危険因子を持たない人(血圧測定を受けた時点で肥満、糖尿病、脂質異常症がなく、腹囲も正常だった人)に対象を絞って同様の分析を行いましたが、やはり、高血圧のレベルが高い患者において、大腸がんリスクは有意な上昇を示しました。収縮期血圧が10mmHg上昇あたりのリスク上昇は4%、拡張期血圧が10mmHg上昇あたりのリスク上昇は8%になりました。
この研究結果は、高血圧と大腸がんの因果関係を示したものではなく、高血圧に対する治療を受ければ、大腸がんリスクが低下するかどうかもわかりません。実際に著者らは、既に降圧薬を使用している人たちについても、大腸がん発症リスクを正常血圧群と比較する分析も行いましたが、14%のリスク上昇が認められました。この分析においては、治療を受けている人の血圧値を考慮しておらず、降圧が十分でなかった患者が多かった可能性もありますが、治療を受けるまでの高血圧の期間が大腸がんリスクに関係している可能性もあり、今後の検討が必要です。
今回得られた結果は、高血圧を甘く見てはいけないことをさらに確認したものと言えそうです。
[日経Gooday2022年3月16日付記事を再構成]
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
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