
今、あなたには鳥が見えるだろうか。鳥の声が聞こえるだろうか。もしそうであれば、あなたのメンタルヘルスは増進されているかもしれない。
学術誌「scientific reports」に2022年10月27日付で発表された研究によると、野鳥がいる場所にいることは、人の気持ちをよりポジティブにさせるという。
この研究に参加したボランティアは、2週間にわたって1日3回、スマートフォンのアプリを介してアンケートに答えた。質問の内容は、自分の周囲の環境と精神状態にかかわるものだ。収集されたデータからは、ある傾向が明らかになった。鳥に出合える人たちは、気分がよいと報告する割合が高かったのだ。
屋外に出ることが脳によいというのは、研究によってますます明らかになりつつある。これを踏まえて科学者らが注目しているのが、自然のどのような側面が、特に大きく健康維持に役立つのかということだ。
「こうした種類の研究は、日々の生活において鳥のような自然の特定の要素とかかわる経験が、どのように元気を回復させるのかを理解する助けとなります」と、カナダ、トレント大学の心理学者リサ・ニズベット氏は言う。
なぜ鳥なのか
論文の著者の1人である英キングス・カレッジ・ロンドンの心理学者アンドレア・ミケリ氏の場合、自然界についての研究に携わっているのは成り行きからだった。
「わたし自身は、とくに自然に焦点を当てた特定の研究を志しているわけではありません。今回の研究も、自然が強い影響力を持っていることを証明しようとしたわけではなかったのです」とミケリ氏は言う。
ミケリ氏の目的は、都会に住む人の方が精神疾患、特に現実と幻覚や妄想との区別がつかなくなる「精神症(サイコーシス)」が多いように思われる理由を探ることだった。
2015年、氏はスマートフォン用アプリ「アーバンマインド」を作成し、アプリ使用者の周辺環境に存在するパターンを探った。たとえば、その人が生活している街はどの程度混雑しているのか、近隣地域を安全だと感じているか、樹木は視界に入るか、といったことだ。
「まずわかったのは、自然には非常に強い影響力があることでした」とミケリ氏は言う。研究チームはそこから、ほかの要素に比べてより有益な効果がある特定の要素を探ることにした。
運河や川沿いを歩くことがポジティブな効果をもたらす、という研究結果を彼らは2022年8月31日付で学術誌「PLOS ONE」に発表している。さらに野生動物による効果を調べるにあたり、彼らは、農村部でも都市部でも見られるという理由から、鳥に焦点を当てることにした。
幸福感が明確に向上
ミケリ氏らの今回の研究は、主に英国およびヨーロッパに在住する協力者1292人を対象としており、その中には専門医によってうつ病などの診断を受けていることを公表している人も含まれていた。
協力者のスマホアプリには、1日3回以下のような通知が送られた。「鳥の姿が見える、あるいは鳥の声が聞こえますか」「気分は明るいですか、それとも沈んでいますか」