「深み」こそが漆の魅力
品質管理の基準も業種によって異なり、自動車には自動車の、カメラにはカメラの基準がある。「色々なメーカーの仕事をしているうちにこちらにも蓄積ができ、逆提案できるようになった」(坂本氏)。今では日本のメーカーとの仕事が大部分だが、「ほとんどが輸出向け製品で、手がけたものの95%ぐらいは海外に渡っている」(坂本氏)。
「メーカーのデザイナーが考えるのは製品の形であり、表面の仕上げはうちが考えることになる。そのときに、海外の人が喜びそうだということを先に考えていては絶対に売れない。海外でも評価される漆の魅力、自分が良いと思える漆塗りとは何かと考えると、それは『深み』だと思う」と坂本氏は言う。「塗料というのは乾きが早いほど優秀だとされている。ところが、漆は非常に乾きが遅い。しかしその分、ほかの塗料には出せない深みを出せる。その深みをどう表現するか。そればかりを考えてきた。金箔銀箔を使うなどして積層して厚みを出し、上から見るととても深く見える。深みを感じさせることができれば、『これは日本でしかできないものだ』と思ってもらえるのではないか」(坂本氏)




(デザインジャーナリスト/エディター 笹田克彦、画像提供 坂本乙造商店)
[日経クロストレンド 2022年10月26日の記事を再構成]