長時間労働前提の働き方 立候補の壁に
議員に女性が少ないのは多くの国に共通する課題だが、日本はとりわけ少ない。列国議会同盟によると、22年8月時点の世界の下院または一院制の議会で女性が占める割合は平均で26.5%。一方、日本は衆院で9.9%、衆参合わせても15%程度にすぎない。
背景には、長時間労働を前提とする男性中心の働き方がある。立候補を検討したが断念した人に内閣府が理由を聞いた調査(20年度)によると「自分の力量に自信が持てない」に続き「当選した場合、家庭生活との両立が難しい」という回答で男女差が大きかった。

家事育児の負担が女性に偏りがちな状況下では、家庭との両立が女性にとって高いハードルとなる。錬太郎さんも「年中無休を当たり前とする政治家の働き方を変えないと、女性議員は増えない」と話す。
また議員活動は配偶者の出番を求められることが多く、夫や周囲の理解を得られない、という理由もある。女性議員のネットワーク、ウーマンシフト代表理事の本目さよさん(東京都台東区議)は「選挙の際『夫はなぜ休みを取って応援に来ないのか』と、周囲に言われることもある。議員活動に巻き込まれることが多いのも、家族が立候補を反対する要因になる」と話す。
17年に内閣府が全国の女性地方議員に聞いたアンケートでも「女性議員が少ない原因として考えられる理由」に、「家族や周囲の理解を得づらい」と答えた人が73.4%にのぼった。本目さんは「共働きが主流となり、結婚しない人も増えている。議員の家族が必ず活動を手伝えるわけではないことや、できたとしてもできる範囲でやるものだと周囲が意識することが必要だろう」と指摘する。
「できる範囲で手伝う」意思尊重を
若手女性議員の夫のなかには、自分のペースで妻の活動を手伝う人も目立ってきた。北海道旭川市の私立高校教員、江川祥光さん(46)は、地域の集まりで女性陣に混じって会場設営などに協力する。妻は旭川の市議、彩さん(41)だ。「行けない時は理由を説明して理解してもらう。一般的な社会のルールと同じ」と話す祥光さん。彩さんは「夫の影響で、男女問わず配偶者はできる範囲で議員活動を手伝う、ということが受け入れられやすくなってきた」と語る。
川崎市議の山田瑛理さん(39)の夫で会社員、山田薫さん(40)は19年の統一地方選の際、手伝いのため1週間ほど有給休暇を取った。政治活動に関わったのは選挙だけ。残業が少ない部署に異動し、子ども2人の習い事の送迎などを担うことで妻の活動を支える。
これまで議員の配偶者といえば、妻が多かった。議員の夫がどのように妻の活動にかかわるか。その意思を尊重できるようにするとともに、専業主婦の妻を持つ男性議員を前提とした働き方や慣習を変えることが、女性が政治の世界に挑戦する可能性を広げる。
選挙活動の際、子どもをどうするかも難しい問題だ。公職選挙法では18歳未満の選挙運動が禁止されている。7月の参院選に挑んだシンクタンク代表、向山淳さん(38)は娘(5)が街宣車に同乗すると違反になる可能性があったため「一緒に乗りたがる娘をなだめた」という。幼い子の親は育児をまるまる肩代わりしてくれる人を見つけられなければ、立候補しづらいのが実情だろう。
女性議員の支援団体、スタンドバイウィメン代表の浜田真里さんは「公職選挙法ができた際、子育てしながらの選挙が想定されていなかった」とみる。来年4月には統一地方選がある。浜田さんは経験者の声をもとに子連れ選挙のしおりを作る予定だ。
(ダイバーシティエディター 天野由輝子)
[日本経済新聞朝刊2022年10月3日付]