薬は、副作用とのバランスをとりながら選択
運動療法などで十分な効果が上がらないときは、鎮痛薬などを使用する。
薬物療法には、次のようなものがある。
・アセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)
比較的胃腸障害や腎障害が少ない解熱鎮痛薬。3~4g/日まで使用できるが、副作用の肝障害に注意する。
・経口NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
効果はあるが、副作用として胃腸粘膜障害、腎障害、心血管障害がある。NSAIDs の中でもCOX-2阻害剤というタイプの薬は粘膜障害の頻度が少なくなる。
・オピオイド製剤
麻薬性鎮痛薬。欧米では強オピオイド(高用量のオピオイド)の中毒が社会問題になっているが、日本では変形性膝関節症には作用の弱い弱オピオイドしか使えない。
・グルコサミン、コンドロイチンなど
国によって対応がやや異なる。欧州では医薬品レベルの高品質のものだけが推奨されている。日本のガイドラインではエビデンスが乏しいとして、内服は推奨されていない。
<その他>
・外用NSAIDs
非ステロイド性抗炎症薬を含む湿布薬。皮膚から吸収されて皮下組織、筋、滑膜に移行する効果をねらう。経口よりも血中濃度は低くなるため副作用が少ない。
・関節内投与
関節内に副腎皮質ホルモンやヒアルロン酸などを注射する。副腎皮質ホルモンは、連用すると骨がくずれるなどの強い副作用が出るので、痛みが非常に強いときに緊急措置としての使用に限られる。ヒアルロン酸は、日本ではよく使われるが、欧米ではあまり推奨されていない。
「ヒアルロン酸の関節注射は推奨されていますが、内服は推奨されていません。単純に考えれば、ヒアルロン酸のような分子量が大きな物質を内服しても、腸管で吸収されず、直接関節まで行くとは考えにくいと思います」と冨田さんは説明する。膝が痛いと言うと、友人などからサプリメントを勧められたりするが、やはり素人判断はやめて医師に相談しよう。
注目される再生医療
再生医療は、体の中の様々な炎症を抑え軟骨の成長を促す物質(抗炎症性サイトカイン・修復因子)の働きにより、症状の緩和や組織修復を期待する治療法だ。現時点では軟骨が再生するというエビデンスはまだないが、症状の緩和は認められている。
日本で行われている再生医療には、大きく分けて脂肪由来幹細胞移植とPRPの2種類がある。
腹部、大腿部の脂肪を採取して、その中の幹細胞を関節内に投与する方法。幹細胞は様々な細胞に分化する性質がある細胞。幹細胞が抗炎症サイトカイン・修復因子を分泌することで、症状の改善を期待できる。
・PRP(Platelet Rich Plasma)療法
患者自身の血液から抽出した、血小板が豊富な血清(PRP)を関節内に投与する方法。白血球、血小板、血しょうの中には、抗炎症性サイトカイン・修復因子が含まれている。これらを高濃度で関節内に注入することで、症状がよくなると考えられる。
・APS(Autologous Protein Solution:自己タンパク質溶液)療法
PRPの次世代型ともいえる方法。PRPを再精製して抗炎症性サイトカイン・修復因子の純度を高めたもの(APS)を関節内に投与する。
「APSは治療に時間があまりかからず、自分自身の血液を体内に戻すものなので、副作用もありません。何度も繰り返し実施できるのも利点のひとつです。ただ、保険診療として認められていないので、自己負担が大きくなります。費用は医療機関によって異なりますが、だいたい1回30万円から40万円くらいかかります」(冨田さん)
人工関節にすると普通に歩けるし、小走りできる人も
かなり進行してしまった場合は、手術を考えることになる。手術には、次のような種類がある。
関節部分を人工関節に置き換える手術。
・単顆型人工膝関節置換術
一部だけを人工関節に置き換える手術。
・骨切り術
O脚になると一部だけに体重がかかって、軟骨の一部がすり減っている。すり減った部分に体重がかからないように、すねの骨を切って脚の向きを変える手術。
「人工関節にすると膝を動かせなくなるという誤解が多いようですが、両膝を人工関節にした人でも普通に歩けるし、小走りできる方もおられます。なかには正座をして立ち上がることだってできる方もおられます。単顆型人工膝関節置換術は、手術後は関節がよく曲がるし、体への負担も少ない治療法です。ただし、変形が進んでしまっていると実施できないこともあります」と冨田さんは説明する。「手術は体に負担がかかるので、難しい場合もありますが、私たちの病院では、人によっては90歳以上でも可能なら受けていただいています」とのことだ。
「治療法はいろいろありますが、どれを選ぶかは患者さん自身が選択することです。今の症状や、これからの人生どのような生活を送りたいかを考えて、主治医とよく相談して納得のいく治療法を選択して最後まで人生を楽しんでください」(冨田さん)
(文 梅方久仁子、図版 増田真一)
