コンサル「最初の3年間」の技術と作法 99にまとめ解説
紀伊国屋書店大手町ビル店
ビジネス書・今週の平台
入り口そばの新刊を並べた面陳列コーナー最上段に3冊並べて展示する(紀伊国屋書店大手町ビル店)
本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。今回は定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店だ。安倍晋三元首相が通算8年8カ月の政権を生前インタビューで振り返った『安倍晋三回顧録』が出るなど、2月は話題の新刊でにぎわい、店全体もビジネス書も前年同月比プラスになったという。そんな中、書店員が注目するのは、コンサルタントが一人前になるまでに身につける技術を、元コンサルタントの著者が詳細に披露したビジネスの思考と作法の本だった。
売り物は「思考」しかない
その本は高松智史『コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト』(ソシム)。副題には「知らないと一生後悔する99のスキルと5の挑戦」とある。著者の高松氏は考える技術を伝授する「考えるエンジン講座」を主催する元コンサルタント。コンサル大手のボストン・コンサルティング・グループで8年を過ごした後、2013年に講座を提供する会社を起業した。考える技術をテーマに、著作もこれが5冊目だ。
就活でも人気の高い大手コンサルでの「最初の3年間」に焦点をあて、そこで身につける技術と作法を99にわたって紹介、解説した内容だ。ほぼ10年間、講座で教えたり動画で語ったりしてきただけに、書きぶりも話し口調でわかりやすく、1年目、2年目、3年目と段階を追って語っているのが特徴だ。4年目以降についても「5つの挑戦」にまとめて簡単に触れている。
「コンサルティングファームは売り物が『思考』しかない」と冒頭に書く。それゆえ、その技術と作法は質的にも濃いと著者はいう。これを「○○するんじゃなくて、□□しましょう」という形式で小分けにして語っていく。文句を言う前に「どう考えたら辻つまが合うか」を考えるとか、相談で終わらせず、相談+報告でピリオドを打てとか、初歩的な作法から始まった1年目は第4項あたりから思考の技術としての濃度が上がってくる。
アウトプットを生み出す6つのステップ
そのポイントになるのは、「論点」という言葉だ。第7項「論点バカ VS TASKバカ」では、アウトプットを生み出す6ステップが「ロ→サ→T→ス→作→ア」という呪文のような言葉で解説される。この一番始めにある「ロ」が論点のことであり、正解のないゲームを考え抜く技術の基本とは、この論点から始まり、これをサブ論点に分け(サ)、サブ論点を解くにはどうすればよいか、そのタスク(TASK)を設計し(T)、タスクのスケジュールを組み(ス)、実際、サブ論点を解くネット検索やインタビューなどの作業をし(作)、これをパワーポイントなどにまとめることで、アウトプットが生み出される(ア)のだ。
この6ステップの働き方こそが、最初の3年間のトップ3に入る「キーとなる学び」だと著者はいう。ここに会議での発言の仕方から時間の使い方、Word(ワード)とPowerPoint(パワーポイント)の使い分けの話まで組み合わせながら、最初の3年間の技術と作法と心得を語り尽くす。仕事で考える技術を成長させるにはどうすればよいか、通読してその全体像をつかむのもいいし、ある程度考えることが得意なら、目次を眺めて気になる項目を拾い読みしてもいいだろう。
「時事系の話題本が多い中で、スキル系の本としては目立った売れゆきになっている」と店長の桐生稔也さんは話す。新規事業開発やデジタルトランスフォーメーション(DX)など、多くの企業が正解のないゲームを戦わざるを得ない状況なだけに、「すべてのビジネスパーソンに届けたい」と著者が意気込む「濃い」思考技術への渇望は、ビジネス街ではことのほか強いようだ。
『安倍晋三回顧録』が1位
それでは先週のランキングを見ていこう。
1位は話題の『安倍晋三回顧録』。2位には7日間で会計の勘所がつかめる構成で書かれた『会計センスの強化書』が入った。3位の『実録バブル金融秘史』は大和証券のMOF(旧大蔵省)担当や証券団体協議会委員長を務めた著者がバブル崩壊後の金融危機を振り返った一冊。1月に訪れたときも3位で、金融関係の会社が多い大手町らしい息の長い売れ筋になってきた。4位の『半導体戦争』は現代の最重要戦略物資をめぐる国家間の攻防を活写した気鋭の米経済史学者による著作だ。今回紹介したコンサルタントの考える技術と作法の本は5位だった。
(水柿武志)