日常生活での利用が期待できる老化制御法

老化の分子メカニズムが解明されてきたことを受け、実際に老化ペースを抑制したり、いったん進んだ時間を巻き戻して若返りを図ったりする技術の開発が進んでいる。「この分野で大きな成果が生まれれば、宇宙開発に勝るとも劣らないフロンティアが開かれる可能性がある」(山田教授)。

再生医療により、細胞をリプログラミングして臓器・組織を若返らせる医療が現実となり、一般の人が予防用途で利用できるようになるまでにはまだまだ時間がかかりそうだが、スローエイジング効果が期待でき、私たちが予防的に利用できそうな方法にはどのようなものがあるのだろう。

下表は、国際的な老化研究グループが2020年時点でまとめた“老化を遅らせる可能性がある薬品・食品関連成分”。日経BP総合研究所メディカル・ヘルスラボ企画・編集による『抗加齢・老化制御最新医療/ビジネス総覧』(日経BP)に掲載されたものだ。

本稿ではそれぞれに詳しく触れないが、例えば食品に含まれる成分では、納豆などに多いスペルミジン、サプリメントで親しまれているグルコサミン以外にも、「老化細胞除去薬」候補として、イチゴに含まれるフィセチン、タマネギに多いケルセチンのようなポリフェノールも上がっている。いずれも本格的なヒトでの効果実証はこれからという段階だが、私たちが日常口にする食品の中にも注目成分がある。

これまでの研究を分析し、老化因子を改善できるメカニズムを持ち、動物実験など基礎的な試験でその効果が実証されていること、ヒトの臨床試験が始まって興味深い結果が出ていることなどを基準に研究グループが選んだ「ヒトの老化を遅らせることが期待される薬品・食品成分候補」。表中の〇は、左に描かれた素材が改善できる可能性がある老化因子。 (出典:『抗加齢・老化制御最新医療/ビジネス総覧』第2章に掲載 Nat Rev Drug Discov. 2020 Aug;19(8):513-532.より改変)

ヘルステックや機能性を持つ食品のマーケティング・コンサルティングを行うインテグレートの藤田康人代表取締役 CEOは、実際に商品が動き始めている老化制御市場のキーワードとして、“細胞活性化”と“心身の恒常性維持”を挙げる。

細胞活性化では、「劣化した細胞を掃除して新陳代謝するオートファジー(自食作用)機能を持つ素材や、老化を制御する遺伝子サーチュインのスイッチを入れるNADブースター[4]と呼ばれる素材などに動きがある」(藤田代表)という。オートファジーを誘導するとされる素材では、ザクロなどに多く含まれるポリフェノール・エラグ酸からヒトの腸内細菌が作り出すウロリチン、サーチュインを活性化するNADブースターでは、いろいろな食品に微量に含まれるNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)というビタミンB3の仲間などがサプリメントとして登場し、話題を呼んでいる。

こうした西洋医学的アプローチの一方で、ヒトが持つ力を引き出し、心身の恒常性(ホメオスタシス)を維持する東洋医学の考え方も改めて注目されている。例えば、漢方の処方の1つである補中益気湯ではオートファジー誘導作用や、細胞内エネルギー代謝の恒常性を改善する働きなども確認されている。

「お隣の台湾では、心身のバランスを重視する食養生理論に基づく“薬膳スープ”や“薬膳茶・ドリンク”が市販食品として売られ、親しまれている。こうした薬膳レシピには日本で食品として使えない生薬も含まれるため、同じような作用を持つ素材に置き換えて日本向きにアレンジした薬膳食品を販売しようとする動きもある」(藤田代表)。

[4] NADの正式名称はニコチンアミドアデニンジヌクレオチド。すべての細胞内ミトコンドリアでのエネルギー産生に欠かせない補酵素で、長寿遺伝子と呼ばれヒトでは7種類確認されているサーチュインのすべてを刺激するが、加齢により減少する。NMNをとると体内で速やかにNADに変換されるため、NADブースターと呼ばれる。

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