かつては精神分裂病と呼ばれていた統合失調症。妄想や幻覚の症状ばかりが注目されがちで、治らない病気だと誤解されることも少なくない。適切な治療で、安定した生活に戻れることを知っておきたい。
統合失調症は約100人に1人が発症する身近な精神疾患である。多くは思春期から青年期に発症し、男女で罹患(りかん)率の差は見られない。
2002年に病名が精神分裂病から変更された。その理由には「病気への偏見や差別が影響していた」と話すのは、国立精神・神経医療研究センター理事長の中込和幸医師。しかし、病名が変わっても発症をオープンにする人はまれで、罹患率の割には身近に感じられない病気のままだ。発症すると入院治療が続くと思われがちだが、通院で回復し社会復帰する人も多い。
症状には陽性症状、陰性症状、認知機能障害がある。陽性症状には妄想や幻覚があり「誰かが自分を殺そうと狙っている」「悪口を広められている」などの被害妄想にとらわれやすい。幻覚では、悪口を言われたり責められたりする幻聴が表れる。支離滅裂な発言や場にそぐわぬ言動、奇異な行動をとるケースもある。

陰性症状は陽性症状が治まると目立ってくる。意欲低下、抑うつなどの症状に加え、感情の動きも乏しくなる。認知機能障害では、記憶力や注意力、判断力などが低下。見通しを立てた行動がとれず、処理速度が落ちたりもする。
「しかし、こうした症状は統合失調症に特有のものではない」と中込医師は説明する。
陽性症状は双極性障害など他の精神疾患にも見られ、覚醒剤などの使用でも表れる。
陰性症状は気分障害やうつ病のほか、パーキンソン病、甲状腺機能低下症など内科的な疾患にも見られる。認知機能障害はアルツハイマー型認知症や脳腫瘍などでも起きる。
診断は問診によりアメリカ精神医学会が定める「DSM―5」や世界保健機関(WHO)が定める「ICD―10」といった診断基準に沿って行われる。他の疾患との鑑別のため血液検査や尿検査、脳波検査のほか、脳をコンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)などで撮ることもある。

病気の原因はいまだ明らかになっていないが、遺伝的な気質に加え、強いストレスがかかることがきっかけで発症すると認識されている。