相撲部屋に入ると、若手はチャンコ番という食事の当番がある。鳴戸親方からは「台所に立つ暇があったら稽古場にいろ」と言われ、食事の後かたづけを手伝うくらいで、あとはひたすら土俵で汗を流した。

入門から2年、史上2番目の早さで十両に昇進した。十両になると「関取」と呼ばれ、食事でもおかずが2、3品増え、食事の順番も早くなる。鳴戸親方からよく言われたのが「人の残すものから食べろ」。トンカツならキャベツから、定食なら小鉢の酢の物から食べる。野菜を最初に取ろうという食の教育が進んでいるが、20年近く前からその習慣は身についていた。

鳴戸親方は糖尿病だったため、食へのこだわりが強かった。部屋の食事メニューはすべて自分で決めていたし、冷蔵庫の中身も完璧に把握していた。荒磯親方は「相撲部屋のちゃんこ鍋は究極のスーパーフード」と語る。これさえ食べていれば、あらゆる栄養素が摂取できて安心という。

荒磯親方は大学院で他のスポーツについても学ぶ機会があり、疑問がわいた。「空腹のまま練習するのは相撲くらい。正しいのか」。相撲部屋では普通、朝は何も食べずに稽古し、終わってから食事になる。筋肉を付け、けが防止の点から、このままでいいのかと考えるようになった。

荒磯部屋では毎朝、うどんを食べ、サプリメントでたんぱく質を補充してから稽古を始める。良質の筋肉を付けるには、毎日体重×3グラムのたんぱく質を取るといいそうだ。荒磯部屋は専門家のアドバイスを受け、サプリメントでの栄養補給も重視している。

力士にとって一番怖いのはケガ。自身もケガが原因で早い引退を余儀なくされた。弟子たちにはケガをしない相撲を取ってほしい。そのためには良質な食事を通じた頑健な体づくりが何より重要だ。

【最後の晩餐】 肉や寿司も好きですが、やはり最後はパスタかな。メンタイコかタラコの和風パスタを大盛りでいただきます。追加でトマト味のあっさりしたパスタも。パスタに限らず、シンプルな味付けが好きです。前菜はオリーブオイルたっぷりのサラダがいいですね。 

20人前のパスタ食す

荒磯親方が通う「ピアットスズキ」の前菜とパスタ

東京・麻布十番のイタリアン「ピアットスズキ」((電)03・5414・2116)がお気に入り。現役時代、後援者に招待されたのが最初で、オーナーの鈴木弥平さんが同じ茨城県出身だったこともあって、今でも月に1度は足を運ぶ。断髪式の前夜にも、お世話になった後援会の人たちとともにテーブルを囲んだ。

茨城県産の旬の野菜や果物をふんだんに使い、魚もその日に仕入れた鮮度の良いものを出す。写真の炙(あぶ)りカツオの前菜や甘エビとフルーツトマトの冷製パスタ、自家製カラスミのパスタはよく頼む。パスタは4人分を大皿に盛ってもらい、5種類、合計20人前を食べる。肉は現役時代から験を担いで鶏が多く、奥久慈産のシャモを丸々1羽、ローストで。素材がいいので味付けはシンプルに。

(編集委員 鈴木亮)

あらいそ・ゆたか 1986年茨城県出身。2002年初土俵、04年17歳9カ月と史上2番目の若さで十両昇進。17年第72代横綱に。19年引退、年寄荒磯を襲名。幕内優勝2回、敢闘賞3回、殊勲賞5回、技能賞1回。21年早稲田大学大学院スポーツ科学研究科で修士課程修了。

[NIKKEI プラス1 2021年9月25日付]

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