企業経営、迫られる変革

「もう一つは世界の課題をビジネスの力で解決しようと取り組む過程で、ビジネス自体を成長させうると考えたのでしょう。成長の機会をそこに見たのです」

「英国の食品・日用品大手ユニリーバの最高経営責任者(CEO)を務めた人物にポール・ポールマンがいます。彼はCEOに就任してまもなく、所得が少なく貧困に苦しむ『BOP(ボトム・オブ・ピラミッド)』と呼ばれる人たちの健康を考えた事業に取り組むと言い始めました」

「ピラミッドの下層にいる人々が貧しいのは、十分に働ける健康な肉体を持っていないからだ。健康を維持するのに十分な栄養を得られていないからだ――。ポールマンはそう考え、ユニリーバの製品を通じて必要な栄養が行き渡るようなビジネスにしたいと提案したのです。彼は株主総会で、最初は赤字になるかもしれないがやらせてくれと言ったそうです。株主はそれを了承しました。低所得層が購入可能な製品を開発し、提供するビジネスを育てました」

「大企業は長らくピラミッドの上層の豊かな人たちを相手に商売をしてきました。国民のウェルビーイング(心身の健康や幸福)を心配するのは国家や公的団体の仕事だとされてきました。しかし企業がそうした公の課題に立ち向かう時代になったのです。そうでないとビジネスがつくりだした問題は解決できない。企業経営の根本が変わらなければならない時代が来たのです」

(編集委員 滝順一)

金融界から環境分野へ
すえよし・たけじろう 1945年鹿児島県生まれ。67年東京大学経済学部卒、三菱銀行入行。同行ニューヨーク支店長を経て96年、東京三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取。98年日興アセットマネジメント副社長(2002年まで)。
 2000年国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP・FI)の運営委員会への参加を機に地球環境問題への関わりを深め、03年同イニシアチブ特別顧問に。福田康夫・麻生太郎政権での地球温暖化に関する懇談会委員などを務める。
■お薦めの本
「皇帝フリードリッヒ二世の生涯」(塩野七生著)
歴史は人が動かしています。善きにつけあしきにつけ、リーダーが社会を変えていきます。今の社会がどうつくられてきたのか、時代の中で自分がどう振る舞うべきかを学ぶことができます。

[日本経済新聞夕刊 2022年3月17日付]

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