名誉と「報道の自由」は両立するか 刑法使った思考法『刑法的思考のすすめ』

「刑法」なんて一生お世話にならないと思っている方も多いだろう。ところが、刑法を使った思考法は意外にも日常生活で役立ちそうだ。

刑法は犯罪と刑罰に関する法律だ。本書『刑法的思考のすすめ』によると、「刑法を学ぶ」とは条文の暗記ではなく、むしろ条文に書かれていない部分についての「思考方法」を学ぶこと。刑法を使う場面では、処罰の公平性を保つために「どのような基準で判断するか」「その基準がいかなる根拠から正当化できるのか」を常に考える必要があり、そのプロセスは知的刺激に満ちているという。

本書は刑法を使った考え方を「刑法的思考」と呼び、実際の判例や架空の事例をもとに解説している。著者は刑法学者で早稲田大学社会科学総合学術院教授の仲道祐樹氏だ。

SNSで身近になった名誉毀損罪

近年、身近になった犯罪に「名誉毀損罪」がある。刑法230条で「その事実の有無にかかわらず」「公然と」人の名誉を毀損した者が罰せられるものとされる。

かつては、新聞・雑誌など文筆に関わる人以外には「公然と」他人の名誉を毀損する機会はほとんどなかった。しかしインターネットが普及した現在は、SNS(交流サイト)上で明らかに他人の名誉を損なう投稿を目にすることも多い。誰もが「公然と」情報発信できるようになったおかげで、名誉毀損罪が大多数の一般人にも関係するようになったのだ。

ただ、「事実の有無にかかわらず」「公然と」という定義には問題もある。例えば、政治家の不正を暴く報道も罰せられることになってしまう。この結果、報道が萎縮する恐れがある。

そこで、第2次世界大戦後すぐの刑法改正で新設されたのが刑法230条の2だ。公共の利害に関する「事実」であれば罰しないと定めている。1つの基準に従ったとき、それによってどんな社会になるかという大きな視点で考える。ここでいえば、刑法230条に従うと報道が萎縮する社会になりかねないということまで考えて、230条の妥当性を検討し、刑法230条の2を付記した。刑法的思考の一例である。

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