「本当は管理職がその充実感をもっと語るべきです。キャリアを上げることが自分の人生にどんなインパクトを与えるのか知らないのに、女性活躍推進の一環で『キャリアアップを目指せ』と言われても、本人は戸惑うだけです」

家事・育児 完璧をめざさず
「女性の働き方というと仕事と家庭の両立ばかりに目が向き、『出世は楽しい』という視点が足りないように感じます。一般社員でも苦労も悩みもあるのだから、それなら組織の上で悩んでみたら? と私は伝えています」
――女性のほうが昇進に消極的であるなど、男女の違いがあるのはなぜでしょうか。
「幼少期の経験やオールド・ボーイズ・ネットワークの存在があるでしょう。幼少期に『いいお嫁さんになりなさい』と言われても『社長を目指せ』と言われる女性は少ない。せいぜい『女性も自立してずっと働く時代よ』と言われる程度でしょうか」
「オールド・ボーイズ・ネットワークとは男性が歴史のなかで築き上げてきた慣習やルールを共有するネットワークのことです。男性は男性上司に飲み会などに気軽に誘ってもらえて、本音を聞いたり、様々なことを自然に指導されたりする一方、女性はどうしても輪から外れてしまうことが多い。上司世代の男性と話すと『出世する意義なんて、言わなくても共通認識だと思っていた』と言われます」
――リーダーを目指さないのは家事や子育ての負担が女性に偏りがちで余裕がない、という側面もありますか。
「もちろん、子育てなどの負担が女性に偏りがちなのも要因です。日本の女性は完璧を目指しがちです。仕事を頑張る人ほど、家のことも真面目にやろうとして疲弊してしまいます。家電や家事代行などプロの力を借りて力を抜くこと、それに罪悪感を持たなくてもいいことをもっと示す必要もあるでしょう。男性の家事・育児参加が重要なのは言うまでもありません」
――もっと上から下へとリーダーのキャリアが語られる必要がありますね。
「私が長年勤めたIBMは『Give back(ギブ・バック)』の精神を大事にしていました。自分の力だけでキャリアを積めたわけではない、チャンスをもらい多くの人に助けてもらったのだから、それを次の世代に返すのは義務だという精神です」