自宅おでん 下準備は炊飯器で、煮崩れなく味しみしみ

中まで味がしみて、煮崩れしないおでんのコツは「グツグツ煮ない」こと。じっくり保温することで、具の魅力やつゆのおいしさを十分に味わうことができる。
寒い日にはホカホカと湯気の立つ温かいおでんが食べたくなる。コンビニや店で食べるのも手軽だが、家で作るおでんには、自分好みのつゆに好きな具を好きなだけ入れられるという魅力がある。
おでんの具はゴロッと大きく、それでいて中までよく味が染みているのが理想だ。そのためには、全ての具を鍋に入れてグツグツ煮込めばいいというわけではない。煮込みすぎると具によっては煮崩れてしまったり、逆に硬くなってしまったり。素材の魅力やつゆのおいしさが損なわれてしまう。中まで味が染みて、かつ、具もつゆもよい状態で仕上げるためのポイントは「温度」にある。
「沸騰したつゆでグツグツ煮れば味が早く染みる」。これは確かに正しい。具に味が染み込むスピードは、温度が高いほど速くなる。一方で、沸騰したつゆの中では他の反応もよく進む。
例えば、大根やジャガイモなどの野菜は、高い温度で加熱するほど速くやわらかくなる。中まで味が染み込むよりもやわらかくなる方が早いので、味が染みるまで煮ていると途中で煮崩れてしまう。
また、鶏手羽肉は沸騰した状態でしばらく煮ると、肉の繊維同士や、肉と骨とを接着していたコラーゲンが分解されて溶け出し、ほろほろとやわらかくなる。ほどほどならおいしいのだが、煮込みすぎるとスカスカになってしまう。反対に、こんにゃくや卵は煮れば煮るほど硬くなり、これも食感が悪くなる。
そこでよく言われるのが「一晩寝かせたおでんはおいしい」。これも確かにそうだ。下ごしらえをした具とつゆを鍋に入れてひと煮立ちさせたら、涼しいところや冷蔵庫で一晩寝かせておけば、その間にゆっくりと味が染み込む。常温や冷蔵ならば、野菜がそれ以上やわらかくなったり、こんにゃくや卵が硬くなったりせず、適度なやわらかさのまま味だけが染みるのだ。
おでんや煮物のコツとして「冷めるときに味がよく染みる」とよく言われるが、実際には「冷めるときに"も"味が染みる」といった方が正確だろう。冷ましながら味を染みさせるのは、味をよく染みこませるためというより、「煮えすぎない」ためだ。
しかし、一晩寝かせるという方法には時間がかかるという難点がある。筆者はせっかちなので、今日作ったおでんを今日食べたい。そこで活用しているのが炊飯器の保温モードだ。

下ごしらえした野菜、ゆで卵、こんにゃく、肉類を炊飯器の内釜に入れ、温めたつゆを注いで保温しておく。練り物は早くから入れると味が抜けてしまうし内釜に入りきらないので、食べる直前に炊飯器の中身と一緒に鍋に入れ、軽く煮て仕上げるとよい。
炊飯器の保温モードは、メーカーや機種にもよるがおおむね60~75度に設定されている。先ほど、野菜は高い温度で加熱するほど速くやわらかくなると書いたが、正確には「80度以上で加熱するとやわらかくなり、温度が高いほど速くやわらかくなる」。80度より低い温度では、長時間加熱してもやわらかくなりにくい。一方、具に味が染み込むという現象は温度が高い方がより速く進むが、80度以下でも着実に進む。
したがって、野菜が十分にやわらかくなったあとは80度以下のなるべく高い温度で保温すると、煮崩れを防ぎつつ、より早く味が染みるのだ。4センチメートルの厚さの大根ならば3時間ほど保温しておけば十分味が染みる。昼に作れば夕飯に間に合う。
コラーゲンの分解は75~85度以上で起こるので、鶏手羽肉も保温モードならスカスカにならない。また、この温度ならこんにゃくやゆで卵も硬くなりにくい。
なお、重要なのは80度以下のなるべく高い温度で保温することなので、必ずしも炊飯器を使う必要はない。最近注目を集めている電気調理鍋には保温機能がついたものもある。また、土鍋や厚手のステンレス鍋は保温性が高いので、火からおろしてバスタオルなどでくるんでおくと、ある程度の時間、温かい状態を保つことができる。
◇ ◇ ◇
下ゆでにもコツ

野菜の煮崩れを防ぐには、下ゆでにもコツがある。野菜を加熱すると、細胞同士を結びつけているペクチンが分解されることでやわらかくなる。沸騰に近い温度帯では、この反応がよく進む。
ところが50~60度近辺では逆に、ペクチンを補強して硬くする反応が起こっている。そのため、鍋に水と野菜を入れたら弱めの火加減で時間をかけて沸騰させ、この温度帯をゆっくりと通過させると煮崩れしにくくなる。特に、ジャガイモのような煮崩れが気になる具材の下ゆでにオススメだ。
(科学する料理研究家 平松 サリー)
[NIKKEI プラス1 2022年2月12日付]
関連リンク
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。