リアル店舗で世界最大級のCDショップが日本にあるのをご存じだろうか。「タワーレコード渋谷店」だ。地上8階地下1階、約80万枚のCDを在庫しているそうだ。
個人的な話になるが、タワーレコード(以下、タワレコ)にはいろいろな思い出がある。米国資本のタワレコ日本進出初の本格的な直営店だった渋谷店(現在とは別の場所)には、1981年のオープン時からよく訪れていた。現在もインストアライブ(店内で行われるミニライブ)などをよく楽しんでいる。
本書『TOWER RECORDSのキセキ NO MUSIC, NO LIFE.』は、音楽配信の隆盛で危機を迎えるCDショップの中で、唯一好調なタワレコを分析。これまでの軌跡と、生き残った「奇跡」について、関係者へのインタビューや各店舗の取材から明らかにしている。
著者の櫻井雅英氏は、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント勤務を経て経営コンサルタントとして独立した。現在はスタートナウ合同会社代表社員である。
■日本の音楽ソフト業界の特殊性
米国はリアル店舗のCD販売は壊滅状態という。米国のタワーレコードは2006年に経営破綻した。一方、日本のタワレコは22年6月1日時点で全国75店舗を維持している。
著者は日本のタワレコが生き残れたのは日本の音楽ソフト業界の特殊性によると分析する。値引きが禁じられ、制限付きながら返品可能な「再販制度」でCDの流通が守られてきた。さらに合法的なレンタルCD店が存在し、配信でなくても低コストで音楽を聴くことができた。
ただ、同じ条件ながらタワレコはほぼ「一人勝ち」の現状にある。似た形態のヴァージン・メガストアやWAVEは消滅し、HMVは業態を変えた。タワレコは逆に店舗数を増やしており、新型コロナウイルス禍による売り上げ減も微少だった。何が違ったのか。