福島・只見の「ねっか」、吟醸香が高い米焼酎

「地元に酒蔵がほしい」。福島県の最西端、新潟との県境に位置する只見町の農家たちのこんな思いから、ねっか(同)の米焼酎造りは始まった。
過疎化が進む只見町では、稲作をやめる人も増えていた。農家を継ぎたいという若者もいるが、冬の間の仕事がないため、多くが町を離れていった。2010年ごろから酒米作りにも取り組み始めていたが、町内に酒米を使う酒蔵がないため、安定供給できるか不安もあった。
こうした声に応えようと、隣町の酒蔵で働いていた代表社員の脇坂斉弘氏らが16年に「特産品しょうちゅう製造免許」を申請(取得は17年)。米焼酎造りを始めた。
原料のコメは「五百万石」や「夢の香」など只見町産米を使用する。五百万石や夢の香は農家が主力とするコシヒカリと収穫時期が異なるため、収益性が向上した。
酒造りが始まったことで、農閑期の冬にも仕事が生まれた。ねっかでは冬季に8人の従業員を雇い入れているが、全員が20~30歳代のUターン組だ。「息子たちが帰ってきたと農家さんたちは喜んでいる」(脇坂氏)という。米作りに関しては19年に食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証「JGAP」を取得している。

製品は吟醸香が高くフルーティーな味わいが最大の特徴だ。酵母は福島県ハイテクプラザと共同で開発に取り組んだ「ねっか用酵母」を使用。基本的に日本酒と同じような製造方法を採用しており、この酵母と清酒用の麴(こうじ)菌を使って発酵させる。
これでできた「もろみ」をそのまま搾れば日本酒になるが、ねっかではこれを蒸留して米焼酎を生産している。さらに小さな蒸留器を使って低温で蒸留することで、独自の香り、味わいを生み出している。
現在は「幸いなことに造った分、売れていく」(脇坂氏)状態で、今年の生産分は9月中に完売した。販売量の8割は福島県内で、特に地元の人が手土産として買ってくれているケースが多い。地元の人々が口コミで商品の良さを広げてくれている状況だ。
日本酒のような吟醸香が高いことから、「もともと日本酒に合うように作られている東北の食材によく合う」(同)と何度も繰り返し購入する顧客が多いという。酢飯との相性も良く、すしと一緒に楽しむのも脇坂さんのお薦めだ。
米焼酎造りに続き、21年5月には日本初となる「輸出用清酒製造免許」を取得。同年秋から香港やオランダ、英国、スイスなどに輸出を開始した。自社製の米焼酎を添加することで「風味が劣化しにくい日本酒」に仕立てた。来年以降、本格的な海外販売に乗り出す考えだ。
また10月に地元を通るJR只見線が全線再開したのを機に、只見駅前にどぶろくの醸造所を建設。只見線の人気が高いこともあり、こちらも完売が続く。ねっかは、さまざまな形で地元を元気づけている。(郡山支局長 小口道徳)

[日本経済新聞電子版 2022年12月8日付]
関連リンク
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界