治療法では「上咽頭擦過療法(EAT=イート)」に関心が集まる。一定の濃度に薄めた塩化亜鉛溶液を上咽頭にこすりつける方法だ。薬液を染み込ませた器具を鼻と口から挿入する。「塩化亜鉛の収れん・殺菌作用で炎症が抑えられる」と田中院長。ただ炎症が強いほど出血や痛みが強く、体質が合わないケースもあると注意を促す。
EATで炎症やうっ血のある部位の状態が改善すると、脳の老廃物を運ぶ脳脊髄液の流れが円滑になるといった作用も考えられるという。田中院長、堀田院長は新型コロナウイルス感染症の後遺症で受診する人にもEATを施しているそうだ。NPO法人日本病巣疾患研究会によると、この治療を手掛けている医療機関は全国に300以上ある。
近年は経鼻内視鏡を用いて炎症がある部分を観察しながらの治療が可能になり、患者の負担軽減や科学的根拠の蓄積が進むと期待されている。2019年には日本口腔(こうくう)・咽頭科学会内に上咽頭擦過療法検討委員会が発足。委員長を務める原渕教授は「EATの普及と診断・治療の標準化を目指したい」と語る。
のどの痛みや頭痛などの不調が原因もわからないまま続く慢性上咽頭炎。疑いがある場合、専門の医療機関に相談してみるといいだろう。
(ライター 田村 知子)
[NIKKEI プラス1 2021年12月4日付]