日本酒をエンタメで盛り上げる 老舗酒蔵9代目の挑戦『日本酒がワインを超える日』

「蔵元の隠し酒」「ガリガリ氷原酒」「非売品の酒」――。いずれも日本酒の銘柄だが、思わず飲んでみたくなる遊び心にあふれている。これらお酒の蔵元である渡辺酒造店は、岐阜県飛騨市にある創業150年を超える老舗酒蔵だ。ジリ貧といわれた日本酒市場において、2002年に約2億6000万円まで落ち込んだ売り上げは、現在約12億円にまで伸びているという。

本書『日本酒がワインを超える日』は、渡辺酒造店9代目社長の渡辺久憲氏が、成功の背景にある「エンタメ化経営」についてまとめた一冊だ。小さな酒蔵が、業界慣行や地域特有の閉塞性を打破するプロセスには、硬直的な組織を改革するヒントがありそうだ。

笑顔になれる体験を重視

渡辺酒造店の長男として生まれた著者は、お酒に関する国の研究機関である独立行政法人 酒類総合研究所で酒造りを学び、現場で仕事を覚えるために長野や広島の蔵元で修業した後、1998年に実家に戻った。ところが、経験を生かして品質向上を図り、及第点のお酒ができたにもかかわらず、思うように売れない。そこで気づいたのが「売る技術」の大切さだ。

まずは第三者の評価を得るべく、国内外のコンテストに次々と出品し、受賞結果をPRに活用した。2007年からは「蔵まつり」と称して酒蔵に客を集め、酒造の見学や、お笑い芸人を呼んだイベントを開催。その中で見えてきたのが、日本酒をエンターテインメントとしてコンテンツ化する戦略「エンタメ化経営」だ。客が笑顔になれる体験を重視し、カッパやUFOが登場するインパクト重視のチラシを配ったり、新聞紙で巻いて秘蔵感を出したパッケージの「蔵元の隠し酒」を発売したりと手を尽くす。もちろん、SNS(交流サイト)も駆使した。

さらに、直販をはじめ、客との接点を増やすことに注力する。そこから「冷酒を飲みたいが、日本酒の瓶が冷蔵庫に入らない」などの声が聞こえてきた。そこで、冷やさなくても冷酒を楽しめる、オン・ザ・ロック専用をうたう日本酒「ガリガリ氷原酒」を発売すると、これが当たった。老舗の立場に安住し、ニーズに応える姿勢が欠けていたことにも気づいていく。

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