実績重ね、人を巻き込む

――トロンの開発も裾野が年々広がり、チームで取り組む機会が増えました。

「仲間を増やすためにはアピールが必要です。その手段が研究論文を書いて発表することでした。最初は一人でしたが、研究者として学会で発表するうちに産業界から評価が集まり、一緒にやらせてほしいと声をかけられる機会が少しずつ増えました。企業との連携や共同研究などを通じて徐々に取り組みの幅が広がっていきました」

国産OS「TRON」のプロジェクトを進めた(1985年)

「トロンの研究は20年ほど前から応用分野にシフトしてきました。現在は複数のプロジェクトに分散しています。『トロンフォーラム』をはじめ、東京都などで進む公共交通機関のデータ活用『公共交通オープンデータチャレンジ』、あらゆるモノがネットにつながるIoTやAIによる住宅づくり、また地方自治体のDX支援など多岐にわたります。コンピューターそのものの研究から始まったトロンの軸足が、社会への実装へと広がってきています」

「マイクロチップの研究はほぼ完成に近づき、安定した技術になってきました。一方で応用の方はまだ無限にいろいろ思いつくのでなかなか終点が見えません。だからこそ私の研究やプロジェクト自身も分散させ、それらが緩やかに連携しながら大きなシステムになって動くという形で研究を進めています」

――チームで物事を進めるうえで、リーダーの役割として何を重視しますか。

「バランス感覚は重要ですね。特定の物事や考えに固執するのは、チームのリーダーにふさわしくありません。『自分が若い頃はこうだったから』などと上から言われても、今の若い人たちにはピンときませんよ。時代も状況も世の中の流れも違うし、科学技術も進歩しています。ビジョンというのは柔軟であるべきです。こういう選択肢しかないとワンパターンに決めるのではなく、どんどん変えていかないといけません」

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会議では盛り上げ役