「さらに『反田も頑張っているな』と思ってもらえれば、オーケストラのメンバーもコンクールを受けてみよう、音楽家として高みを目指そう、と考えてくれるのではないかと思います。スタッフさんもきっと、良いコンサートをつくろうと一層頑張ってくれるでしょう。上に立つのではなくて、前に進み続けること。リーダーとして、とても大切なことだと考えています」

「他の企業経営者と出会うと、『何で失敗しましたか』と必ず聞きます。成功は見れば分かります。音楽家も同じで、何千回の演奏をして伝説になるような公演や録音は人生で1、2度でしょう」

お金の話タブーにせず

――経営者目線を持つ音楽家は少ないようです。

「日本では芸術家がお金の話をするのはタブーという雰囲気があります。ファンの方もそう見ているでしょう。だけど米国や欧州に目を向けてください。僕よりも若い音楽家が自分でお金を集め、音楽祭を創設し生活しています」

「世界における日本の賃金水準は相対的に低下しています。ピアニストを目指す子供は減っていますが、ユーチューバーやプロゴルファー、サッカー選手になりたい子は多いです。暮らしぶりが伝わり、子供の憧れにつながる部分はきっとあります。音楽家が稼げるとは言いませんが、勇気を持って努力を続ければ、音楽家として生きていくことはできます。次の世代に伝えていきたいことです」

オーケストラのリハーサルに臨む反田さん(右端)©Kenryou Gu

――18年に演奏家のマネジメントや公演企画を行う会社「NEXUS」を設立しました。ピアノの務川慧悟さん、バイオリンの岡本誠司さんと有名コンクール入賞の実力者も所属しています。なぜ自ら会社をつくったのですか。

「一つには、自分の好きなことを自由に、フレキシブルにやりたいという単純明快な理由がありました。クリエーターとしての意識が強くなっていたのだと思います。それまでは演奏家としてピアノを弾くだけの人生でした。一人間として『社会人になりきれていないのでは』という不安があったのです。演奏だけでなく、いろんな人と会って直接話をして、一緒に仕事をしてみたいと強く思いました」

「同時にどうせ事務所をつくるのであれば、仲の良い音楽家を誘って定期的にコンサートを開きたいと考えました。日本のクラシック業界では演奏家が最初から最後まで企画に携わる自主公演は非常に少ないと思います。人気があって勝算のある演奏家でもなかなかできません。NEXUSの場合、完全に自社でリスクを負って多くの自主公演を開催します。そんな事務所はほぼないでしょう」

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リスク負い収益は還元