
性差はなぜ起こるのか。秋下教授は「性ホルモンの働きが大きい」と指摘する。女性ホルモンのエストロゲンには血管や骨など全身を保護する働きがあり、女性は分泌量が減る閉経前後までは男性に比べ生活習慣病になりにくい。秋下教授によると男性ホルモンにも保護作用はあるが、エストロゲンより弱いのではないかという。
「男性は女性より早く40代頃から生活習慣病だけでなく、心筋梗塞やがんといった命にかかわる病気も増える。定期的に検診を受け、病気が見つかったら、しっかり治療を」と秋下教授は助言する。
一方、女性は閉経を迎える50歳前後から動脈硬化や生活習慣病、骨粗しょう症などが一気に進む。例えば動脈硬化のリスクとして知られる血中LDLコレステロール値は通常、更年期以降に急上昇する。「基準値を超えても、男性のようにすぐに治療につなげる必要はないが、頸(けい)動脈エコー検査は受けておくとよい」(天野医師)。検査では動脈硬化がどの程度進んでいるかが分かるため、結果次第で治療を検討すればいいという。性差の知識を日ごろの健康管理に生かしたい。
日本性差医学・医療学会は今年4月、性差医療を学ぶ医療者向けの研修・認定制度を始めた。片井教授は「性差医療は日本ではまだ新しい分野。医療現場に広がることで、医療の質と診断精度の向上につながる」と期待を寄せる。
(ライター 佐田 節子)
[NIKKEI プラス1 2022年6月4日付]