日本とフィジーで2拠点生活 「脱成長」で見えたもの

日経xwoman

フィジーと日本を行き来して緩急のバランスを取る(写真はイメージ=PIXTA)
日経 X woman

フィジーで英語学校の校長を務める永崎裕麻さん。2020年春から「日本・フィジー・デンマーク」の世界3拠点生活(トリプルライフ)を送る予定でしたが、新型コロナウイルスの影響もあり、現在はフィジーに滞在しています。「脱成長」についてをテーマに、フィジーと日本で暮らし、感じたことを振り返ります。

「成長圧力」「自己責任論」が根強い日本

最近、「脱成長」という言葉を聞くようになりました。

「何が何でも成長を目指そう」ではなく、「1日1日を大切に生きよう」という価値観が広がってきたのだと思います。経済学用語でも「定常経済」があります。活発な経済活動が行われているものの、経済成長を目標としない考え方です。ゼロ成長経済ともいいます。

やみくもに国内総生産(GDP)を高めることに一点集中するのではなく、ウェルビーイング(主観的幸福)を測る「国内総充実(GDW)」という新しい尺度が注目されています。量より質を求め、国民一人ひとりが幸せを実感できる社会をつくろうという流れにあるのでしょう。

日本社会は同調圧力のみならず「成長圧力」も強くあるように感じます。「自己責任」という言葉が頻繁に使われる自助社会では、自分の成長が生き残りに関わってきます。

現在、僕が住むフィジーは共助社会であり、助け合いや協力を重視します。「自力」も大切ですが、それ以上に「他力」をうまく活用します。自分ができなくても、誰か他の人ができればいいのです。

もちろん、成長を目指すこと自体が悪いことではありません。ただ、心身をすり減らしてがむしゃらに成長を追い求めるのではなく、成長の代替案を探して幸福度を高めるというものです。

成長しようと力むよりも、ふっと肩の力を抜いたときのほうが進むべき道を見つけられるかもしれません。

今回は「キャリア」「お金」「居住地」の3つの視点から、どうしたら生活の中に「脱成長」を取り入れられるかを探っていきたいと思います。

「脱成長」を暮らしに取り入れるヒント3つ

(1)「40歳」を機に、キャリアに休止符を打ってみる

「40歳定年制」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

これは東京大学大学院教授の柳川範之さんが提唱している考え方です。

「40歳でリタイアしよう」という意味ではなく、「70代や80代になってもイキイキと働くために、40歳くらいでいったん区切りをつけよう」というアイデアです。人生100年時代、75歳まで働くとすれば40歳時点でも、まだ35年もの期間を働き続けることになります。40歳くらいで立ち止まり、これからのライフキャリアについてじっくりと考える時間を確保しようということです。

僕自身は4年前、ちょうど40歳のときに40歳定年を経験しました。当時勤めていたフィジーの会社を退職し、1年間、家族との時間をたっぷりと過ごしました。離職中は完全に子ども中心の生活にシフト。日々、子どもたちに振り回され続け、いろんな気づきがありました。「仕事」「趣味」「家族」「学び」「社会貢献」「友人関係」「育児」「健康」など、さまざまな分野で価値観をアップデートできました。特に仕事面では、「いつでも、どこでも働ける」という労働環境を求めていることに気づきました。離職していたからこそ、現実的な落としどころではなく、自分の本当の理想に気づけたのだと思います。

離職中は想定外の気づきのオンパレード、点と点が線でつながる感覚をたくさん味わえました。時間に追われる生活をしているときは視野が狭くなりがちで、つながるべき線を発見できないこともあるのだと感じました。

1日でも、1週間でもふと立ち止まってみると、新たな気づきが生まれるものです。僕自身は日本でサラリーマンをしていた3年間、1年に1度だけ取得できる9連休を活用し、海外旅行をしていました。その旅先での出会いがキッカケで、世界一周旅行や海外移住という選択肢に気づくことができました。

次のページ
「脱成長」の秘訣は「緩急」にあり