性別役割分業なくすには 自分を主語に経験共有しよう

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『早く絶版になってほしい #駄言辞典』(日経BP)。この本で参考文献として紹介した『女性差別はどう作られてきたか』(集英社新書)の著者、北海学園大学名誉教授で政治学者の中村敏子さんに、「これからさらに日本のジェンダーギャップを解消していくために必要な3つのこと」などを聞きました。

「女性の生きにくさ」の3つの原因

中村敏子さん(以下、中村さん) ここまで日本における女性の歴史を見てきたところで、現代の日本における女性の生きにくさをつくっているものを3つ挙げてみましょう。

1つ目はイデオロギー。2つ目は社会構造。3つ目は家族観の変化です。

1つ目として挙げたイデオロギーは、主に「女らしさ」を指し、詳細は先述した通りです。明治時代に中国と西洋両方の家父長制的イデオロギーが影響し、女性の行動を縛ることにつながりました。

2つ目の社会構造としては、性別役割分業が今の女性の生き方を縛っているといえます。

そして、3つ目としては、家族のかたちが今までの「家」から、夫婦を中心とする結婚観に変わってきている点が挙げられます。人々がデモクラシーや自由、平等、「女性にも権利がある」といった教育を受けた結果、徐々に家族のかたちが変わってきているのです。昔のように「家族は皆で一緒に働いて生活しなければいけない」というものではなくなってきています。

昔であれば、家族の在り方として、「家の中で一人ひとりがどういう役割を持つか」と考えられていたものが、今は夫婦が結婚して子どもを産んで……というかたちに変わってきています。そして、親の世代の家族観と現役世代の家族観にズレが生じてしまったわけです。

しかしそうは言っても、日本人の結婚観は、基本的には「家」的であると私は思います。私は英国で研究生活をした経験もあるのですが、西洋における夫婦は「一体」で、非常に密な関係です。それ以外の人との関係性はあまり密ではないのです。つまり、結婚においては、家族をつくるということよりも「(夫婦)二人が一緒になる」という点が非常に重視されます。

一方で、日本の場合はどうでしょうか。例えば、結婚式において、新郎新婦は「これから温かな家庭をつくります」といったスピーチをしたりしますよね。つまり、枠組みがあって、そこにメンバーがいる。それが家である、というイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。夫婦二人きりではなく、将来できる子どもも含めて、集団として幸せに暮らしたい、といったイメージです。

この100年間で日本の女性が得たものとは?

日経xwoman編集部(以下、――) 中村さんの著書にも紹介されていた、与謝野晶子氏の『「女らしさ」とは何か』が書かれてから、2021年でちょうど100年目です。この100年で、日本の女性たちが得たもの、得られなかったものをどう振り返りますか?

中村さん 「日本の女性たちが得たもの、得なかったもの」という表現は、女性たちが「何を欲しいと思ったか」ということと対にして語られるべきだと思います。ですからここでは「何が変わったか」という言い方でお答えします。

私は日本の女性は、これまでの歴史の中で、かなりの行動の自由を得たと思います。私たちの若かりし頃は、女性がサッカーやラグビー、ボクシングなどのスポーツをするなんてことは、全然考えもしなかったわけです。仕事でも、女性が(建設工事などの)現場監督をするといった発想はありませんでした。こう考えてみると、日本の女性たちの行動の自由は、以前では考えられなかったほど大きく広がったといえるでしょう。

私たちのさらに先輩世代の女性たちに昔の女性の生活について尋ねると、「大学に入ったらまず女性用トイレを作る運動から始めた」「働き始めたら保育園を作るための運動をした」といった話から始まっていましたから。

―― 確かに素晴らしい前進ですが、やや悲しい現実のようにも感じますね。

中村さん でも、仕方がないのではないでしょうか(苦笑)。

―― そういった話を改めて聞くと、確かに日本の女性たちを取り巻く環境は、とてもドラスチックに変わっている感じがします。

中村さん 1970年代に日本で起きたフェミニズムの動きが社会を大きく変えたと思います。

―― ということは、今、問題視されている性別役割分業も「なくそう」「変えよう」と訴え続けていればいつかはなくなると考えてよいのでしょうか。

中村さん なくなるようにするんです! 私は最近いろいろな方とお話しをする中で「女らしさ」というイデオロギーの部分では、逆に、今の女性たちのほうが昔の日本の女性たちよりも縛られているのではないか、という印象を持っています。

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「女らしさ」の押しつけ、言われた通りにしなければ