苦難を乗り越える人に共感 大和証券グループ本社社長 日比野隆司氏

 本との出合いは、小学校入学の2年前だった。幼稚園の先生とけんかし、「中退」した。午前中は兄弟も同年代の友達も学校や幼稚園に行っていて、いない。本が友達になった。

大和証券グループ本社 日比野隆司社長

入園からわずか1カ月。先生に理不尽に叱られて、登園拒否になりました。友達は皆、幼稚園に行っていますから遊び相手がいません。兄、姉の本棚から低学年用の本を持ち出しては読み出しました。

片っ端から読みましたが、繰り返し読んだこともあって今でも印象深いのは『美しい話・いじんの心』(偕成社)1年生用、2年生用の2冊です。学校に行かず自分で学ぶエジソンの話には、自分の境遇を勝手に重ねて感動していました。

幼稚園のとき、エジソンの伝記に感動した

ほかに、手のけがを治してもらい医者になる決意をする野口英世や、三重苦を克服するヘレン・ケラーや二宮尊徳とか。今思えばテレビドラマの「水戸黄門」みたいなワンパターンな偉人伝ですが、貧しさや労苦を耐え抜き偉業をなし遂げた人の話は三つ子の魂には響きました。

「路傍の石」などもよく読んだ

苦労のなか生き抜くという意味では同じジャンルに入るのでしょうか、山本有三著『路傍の石』(新潮文庫ほか)も好きで、読み返しました。苦難を乗り越えていく人への共感は自分のなかに強く残って、いまの自分の骨格を作っていると思います。私の本棚のルーツです。

 20代の後半、ロンドンで債券チーフディーラーとして活躍。日本では株のチーフディーラーも務め、マーケット部門でのキャリアが長い。マーケットと対峙する仕事の傍らにはいつも「酒田五法」があった。

日系証券会社が拡張期だった1980年代のロンドンでは、次々と新たなセクションの立ち上げに関わったこともあり、国内なら部長級のような仕事を任されました。その時代に愛読したのが『酒田五法は風林火山』(日本証券新聞社)です。江戸時代の天才相場師、本間宗久の相場分析をまとめた本です。

英訳して部下に勉強させ、利益も上がりました。本間の極意をまとめた「酒田五法」は相場を人間心理の縮図ととらえ、西洋の分析より、よほど奥が深いのです。精神性の高さに惹(ひ)かれました。自分で言うのも何ですが、相場師的な性格で、証券会社に向いているのかなと思います。

 山一証券が破綻し、日本が金融危機に震えた1990年代後半。企画部門の次長として会社存続の危機に向かい合う中、手に取ったのが稲盛和夫氏の本。

最初に手に取った本は96年に出版された『成功への情熱―PASSION』です。ほとんどの日本の金融機関と同様に、大和証券も崖っぷちにありました。経営トップのスタッフとしてですが、どうやって会社を立て直していくか、必死でした。「(成功に対する)情熱と呼べるほどの強い思いさえあれば、まず何でもやり遂げることができる」「情熱とは、寝ても覚めても、二十四時間、そのことを考えている状態です」といった著述に奮い立たせられました。

生き方』のなかでは、中国の明代の思想家、呂新吾の『呻吟語』から一部を引用しています。「深沈厚重なるは、これ第一等の資質。磊落(らいらく)豪雄なるは、これ第二等の資質。聡明(そうめい)才弁なるは、これ第三等の資質」と引き写し、リーダーには才より徳が求められると説かれています。社長になってから読み返した時、その重みが改めて心に響いた箇所です。

「試練を『機会』としてとらえることができる人――そういう人こそ、限られた人生をほんとうに自分のものとして生きていける」というくだりがあり、勇気づけられています。(聞き手は編集委員 土屋直也)

【私の読書遍歴】

《座右の書》
大和証券グループ本社日比野隆司社長の愛読書
稲盛和夫氏の著書『生き方』(サンマーク出版・2004年)、『成功への情熱―PASSION』(PHP研究所・1996年)。企画担当の常務時代に大和証券のスローガン「Passion for the Best」を考案したのはこれらの影響。
《その他の愛読書など》
(1)巨象も踊る』(ルイス・ガースナー著、山岡洋一・高遠裕子訳、日本経済新聞社・02年)、『小倉昌男 経営学』(小倉昌男著、日経BP社・99年)。一流経営者の実績に裏付けられた経営論にはつい手が伸びる。
(2)P・F・ドラッカー氏の著書『現代の経営』『経営者の条件』など。いずれも「ドラッカー名著集」(上田惇生訳、ダイヤモンド社・06年)ほか。経営の手がかりを求めて折に触れひもとく古典。
(3)失敗の本質』(戸部良一・野中郁次郎ほか著、ダイヤモンド社・84年)。第2の敗戦ともいわれる現代日本を読み解くヒントがある。
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