最高賞のパルムドールに輝いたオーストリアのミヒャエル・ハネケ監督「アムール」はパリの高級アパートで病を抱えながら入院を拒む妻と、献身的に介護する夫の愛を描く。
「男と女」のジャン=ルイ・トランティニャン、「二十四時間の情事」のエマニュエル・リヴァという80代の名優が迫真の演技を見せた。
老夫婦はその愛の強さゆえに、周囲との折り合いを欠き、浮き上がっていく。老老介護という今日的な題材だが、「社会的な作品を作る気はなかった。感情を描きたかった」とハネケが言うように、カメラはほぼ全編アパート内にとどまり、2人の営みを凝視する。
■中世やファシズム時代の疎外感、今も
その結果として、現代人の孤独をいやせない福祉や医療といった現代社会のシステムの不毛がみえてくる。
主演のマッツ・ミケルセンが男優賞を獲得したデンマークのトマス・ヴィンターベア監督「狩り」は、ごく平凡な町で1人の男が知らぬ間に周囲から孤立する物語だ。
男は少女の軽い気持ちのウソから、児童性愛の疑いをかけられる。保育園を通じてうわさは一夜にして広がり、男は村八分にあう。誰も話を聞いてくれず、嫌がらせをされ、食べ物さえ売ってくれない。
中世やファシズムの時代のようなことが現代でも容易に起こる。情緒を排した冷徹な映像がそう思わせる。「情報がウイルスのように素早く広がる村の小宇宙を描いた。インターネットを通して世界はうわさに満ちた小さな村となった」とヴィンターベア。
女優賞と脚本賞を取ったルーマニアのクリスティアン・ムンジウ監督「ビヨンド・ザ・ヒルズ」も現代の集団心理の恐怖を描く。修道院にいる親友を若い女性が訪ねるが、異分子である彼女の孤独感は募る。
神父や修道女たちは善意から、非科学的な治療行為に走る。こちらもあたかも中世のような話だが、細分化し孤立した現代のどの社会でも起こりうる寓話(ぐうわ)だ。