「ロールモデル」が重要 米防衛2社女性幹部が語る
ノースロップとロッキード
かつて「男の牙城」と言われた米防衛業界に女性幹部が増えている。いかに「ガラスの天井」を破ってきたのか、ノースロップ・グラマン事業担当副社長のリンダ・ミルズ氏(63)と、ロッキード・マーチンの最新鋭ステルス機F35担当副社長、ロレーン・マーチン氏(50)に聞いた。
■リンダ・ミルズ氏 「女性自身の意欲も必要」
――ノースロップ・グラマンは経営幹部の半数が女性ですね。
「多様な人材がイノベーション(新機軸)を生み出すという多くの研究結果を受けた、我が社の戦略の反映です。多様化はまず幹部チームから始めなくてはなりません」
「私が入社したてだった約30年前にはロールモデル(規範)となる女性幹部が少なく、上を目指すための道筋が見えにくかった。女性の出世のハードルは男性より高かったようにも思います。今の若い女性には多くのロールモデルがいます。我が社は2006年から毎年『女性会議』を開催しており、数百人が経験を共有しています」
「女性は人生における経験が男性とは違うので、異なる角度から質問を投げかけることが多いのです。我が社の経営幹部会議でも双方向の対話が増え、議論が活発になりました」
「軍需業界で女性幹部が増えているのは、それぞれ長年活躍してきた女性たちが、ちょうど同時に開花したのだと思います。ただ、大学などで技術分野を選ぶ女性はまだ少なく、コンピューター科学などの分野では減っています。こうした傾向は業界だけでなく米国にとっても懸念材料です」
――女性が幹部を目指すために必要なことは何でしょう。
「女性は国際経験を得られる仕事や企業の事業の核となるプロジェクトなど、出世のカギとなる役職に就く機会が少ないとの調査があります。私は幸運にもこうした役職に恵まれたことで、現在の地位への準備を整えることができました」
「ロールモデルを持つことに加えて重要なのは、自分が選んだ分野で抜きんでること、情熱を持つこと、人間関係を構築すること、そしてリスクを恐れないことだと思います。特に幹部になると100%の確信を持てない問題で決断を迫られることが多く、リスクを取るべきかどうかを素早く決断し、その決断に自信を持つ能力が要求されます」
「話題になっているヤフーのメイヤー最高経営責任者(CEO)、フェイスブックのサンドバーグ最高執行責任者(COO)はいずれもこうした資質を備えています。女性の昇進を容易にする環境と、女性自身の意欲の両方が必要ではないでしょうか」
「昇進すれば仕事と家庭の両立はより難しくなります。部下を持てば、自分の家族に加えて従業員というより大きな『家族』ができるからです。ただ、技術の進歩でオフィスにいなくてもできることが増えました。また私は家族の応援にも支えられてきました。様々な意味で『チーム』が必要なのです」
■ロレーン・マーチン氏 「求められるのは実績と能力」
――軍需業界で女性幹部が増えています。
「私が防衛・航空業界に入って20数年になりますが、あらゆる役職や職種に女性が増えました。科学技術分野に関心を持つ女性が増えたことが大きな要因だと思います。私が空軍のクラスで学んでいた頃は、女性は自分一人ということが多かったです」
「女性が増えているのは管理職などの幹部だけではありません。一週間ほど前に航空機の製造ラインで出会った現場監督は、元海兵隊で母親でもある女性でした」
「幹部に登用されるために重要なのは実績、リーダーシップ、適性・能力であり、少なくともわが社では性別などは関係なく実績と能力で判断しています」
――もっと女性を登用すべきだと思いますか。
「企業が困難な問題に対処するには、多様な考え方や見方を持つ人材を登用し、幅広い意思決定過程と視点を持つことが重要です。多様な視点はジェンダーの違いからも、他の人生経験の違いからも生まれます。我が社は科学技術分野に関心を持つ若い女性の支援にも関わっています」
「女性であることを不利と考えることなく、常に結果を出し、自分の能力に自信を持ち、できる限り貢献することをキャリア戦略としてきました。科学技術分野でのキャリアを考えている女性たちを支援し、成功の道筋を示すことは我々の責任だと感じています」
「私はこれまでに多くの転勤を経験してきましたし、仕事と家庭のバランスは常にチャレンジです。ただ、これはスピードの速い現代の現実であり、また女性だけの問題ではなく、男女が協力して解決する必要があります」
(聞き手はワシントン支局 芦塚智子)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。