答えは現場に、被害者の自立を支援 JEN事務局長・木山啓子さん
Wの未来
――JENが創設された1994年以来、人道支援に取り組んできました。
「イラク戦争やハイチ地震、東日本大震災など、22カ国・地域で紛争や災害で生活基盤を失った人たちを支援してきました。私たちは緊急時すぐに出動する体制を整えています。大切なのは、被害を受けた人たちの自立を手助けすることです。そのためにも早く現地入りして信頼関係を築き、何が本当に必要とされているのか、課題を見極める必要があります」
――どんな活動をしているのでしょうか。
「例えばハイチ大地震では多くの建物が倒壊し、JENは被災者が自分の力で家屋を建設するための資材を提供しました。また、被災地では夏場にコレラがまん延するという懸念があり、キャンペーンを実施して衛生面の改善に取り組みました」
「キャンペーンでは、村の若者がボランティアの『衛生普及員』として活躍してくれました。彼らが正しい衛生の基礎知識を身につけ、村の一軒一軒を回って安全な水の定義や手洗いの方法などを伝えました。その結果、村ではコレラの死者が一人も出ないという結果につながりました。地域のため無償で働く習慣がないハイチでは、画期的な事でした」
――長く働き、つらく悲しい現実に直面することが多かったと思います。
「1999年にコソボ空爆が始まる前に、現地の住民から『正義の戦いなどない。禍根を残し、次の戦争につながるだけだ』という声を聞きました。戦争が始まる不安に街全体が包まれていました。私はというと武力行使が間違いだと思っているのに何の力にもなれず、とても無力感を覚えました。また、同じ人道支援をする仲間が風土病で亡くなることも何度かありました」
――木山さんはつらい時、どう乗り越えるのでしょうか。
「気持ちにあらがわないことでしょうか。自分が元気になるまで、つらい思いに打ちひしがれるようにしています。心の整理がつかないときに無理をしても前に進むことはできません。つらい思いは胸にしまいます。『難民の人たちのつらさに比べれば小さいものだ』と考えながら、仕事は休まず続けます。そうすると、次第に頭と心の状態が一致してきます」
――女性ならではの大変さを感じることはありますか。
「大変さは感じたことはありません。逆に仕事をするうえで、やりやすい点はあります。例えば、難民キャンプの多くは女性と子供で7割以上を占めます。イスラム文化圏の女性の多くは見知らぬ男性と話すことはしませんが、女性には話してくれます」
「個人的には、自分はこの仕事に向いていないと常に思っています。能力不足でしょうし、自分より優れた人も多いことでしょう。だから、自分が間違っていたら、すぐに非を認めて謝ることにしています」
――もともと人道支援の仕事に興味があったのですか。
「大学卒業後は電機会社に就職しました。4社で勤務した経験がありますが、最後に勤めた国際会議のコーディネートなどをする会社で、仕事ができず『戦力外通告』を受けて落ち込みました。友人のすすめもあり、アジア医師連絡協議会(AMDA)という医療支援団体に入り、94年、難民支援のためネパールに赴任しました。その約1カ月半後、AMDAなどがJENを立ち上げるというので、プロジェクトへの参加を打診されました」
「責任者としてJENに加わるとは聞いておらず、驚きました。選ばれた理由はわかりません。元気がよくて皆より年齢が上だったからではないでしょうか。ネパールでは手探りでしたが、自分なりに仕事を見つけることができて『私の進む方向性は正しい』と思えるようになりました。当時の国際人道支援の世界はのどかというか、私のような者でもチャンスをもらうことができました」
――ここ数年、企業のソーシャルビジネスへの関心が高まっています。
「人道支援もビジネスにつながれば素晴らしいと思います。ソーシャルビジネスは今後、ビジネスの主流になるかもしれません。ただ、すぐに利益が出るものではありません。企業は長期的な視野を持つ必要があります」
「JENは国連や外務省との契約、個人からの寄付などで活動資金をまかなっています。年間予算は10億円程度です。人道支援には時間がかかるので、活動を長く続けるためにソーシャルビジネスを視野に入れることは大切です。私も関心があります」
――社会貢献の仕事を目指す女性が増えています。メッセージをいただけますか。
「この仕事は現場を回り、人の話をよく聞くことが大切です。現場の声から課題を見つけて、かゆいところに手が届くような解決策を提案します。現場の声と自分の知識をうまく混ぜて導き出した答えが、いい結果をもたらすことが多いと思います。今のうちにできる準備として、積極的に外に出て、とにかく自分の目で見る習慣をつけてはいかがでしょうか」
(聞き手は山本優)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。