若返り、猫背解消、自律神経…2012年の健康3大トピックス
日経ヘルス編集長 藤井省吾の「健康時評」
実践する医師が提唱する「若返り」がブームに
2012年を象徴する健康系のキーワードが「若返り」だ。この分野に火をつけたのはナグモクリニック総院長の南雲吉則医師。著書の『「空腹」が人を健康にする』(サンマーク出版)の出版を機に、36歳のころより56歳の現在のほうが若々しく見えるという写真や、血管年齢の測定値が26歳と若いことを公表し、メディアをにぎわせた。
アンチエイジングやウェルエイジングの研究は、ここ10年ほど盛んになっていた。しかし、その成果を自身の体で多くのメディアを通して体現してみせるという医師は、南雲医師以前にはほとんどいなかった。明らかに若く見える56歳のメディア登場は、明確なエビデンスとして「若返り」のブーム化を助けることになった。
私自身は、2012年という年に「若返り」がブームとなった背景には、団塊の世代が60代になったことの影響も大きいと見ている。経済的に比較的余裕のあるこの世代が、退職し時間を持ち、自身の健康に向き合う。国立長寿医療研究センターなどの調査でも、10年前にくらべて今の65歳は体力的にまだまだ若いこともわかっている。従来の60代は「病気」と向き合うという人が多かったのに対して、今の60代はまだまだ「若返り」を目指したい人も多いといえそうなのだ。
さて、南雲医師に話を戻すと、若返りの秘訣は3つ。(1)お腹がグーっとなるまで食べない。(2)食品はできるだけ丸ごと食べる。(3)早寝早起き ゴールデンタイムに寝る。
特に、(1)の方法で、糖・塩分・脂肪の過剰な取りすぎを防ぐことができて、南雲医師が自身で実証している「血管の老化を防ぐ」ことができるのだという。
ラジオ体操で、「猫背解消」、若見え姿勢に
もう一つのキーワードが、「猫背解消、若見え姿勢」。健康系の書籍やムックでは「猫背解消」をタイトルに入れたものがヒットした。また、スポーツドクターの中村格子医師が、ラジオ体操のポイントを示した本『大人のラジオ体操』(講談社)も2012年夏の時点で40万部突破のベストセラーに。昔からの"定番"といえるラジオ体操はその価値が軽視されていたが、中村医師が解説するポイントを押さえて行うと、姿勢が良くなり、全身の筋肉が活性化されると、再注目された。
こちらのブームを支えたと考えられるのが、40代以上の女性たち。従来はファッション、メイクやスキンケアで「若さ」を追い続けていたが、それだけでは不十分なことに気づいたようだ。美の追求の項目に、新たに猫背解消や若々しい姿勢を手に入ることも加わえ、体のケアを始めたようなのだ。
中村医師が若見えのために重要だと、指摘するのが抗重力筋という筋肉群。しっかり使わないでいると、20~25歳ぐらいの比較的若い時期から衰えて、猫背などの老けて見える姿勢を作る(右イラスト)。
こうした姿勢の差は、一見すると「若見え」「老け見え」だけの現象のように捉えられるが、実は「若見え」姿勢は腰、股関節、ひざ、足などの健康を守ることにつながる。日本整形外科学会が危惧するロコモティブシンドローム(運動器の障害による将来の要介護や寝たきり)を防ぐことにも役立つのだ。
見た目のためにも、将来にわたるロコモティブシンドローム防止のためにも、引き上げ姿勢を作るための筋肉への意識や、トレーニングが必要性が意識されるようになってきた。
「腸を整え」、「自律神経」のバランスを整える
3つ目のキーワードが「自律神経」。自律神経とは、無意識のうちに心臓や内臓などの働きを調整する体の神経系のことで、興奮時に活発化する「交感神経」と、リラックス時や休息時に活性化する「副交感神経」の2系統がある。これらは、いわば体のオートマティック調整機能なので、その重要さは知られていたが、この2系統のバランスが崩れたときの対処法については、あまり知られていなかった。
そこに、「腸を整えると『自律神経』のバランスが取れるという新しいメカニズムを提唱し、話題をさらったのが順天堂大学医学部教授の小林弘幸医師だ。小林医師らは、アスリートを中心に自律神経を計測する研究を行っていた。その研究を基に、自身が創設した大学病院内の便秘外来を通して、便秘の患者の自律神経状態が交感神経優位の人が多いことに気がついた。そこで、現代人特有の「交感神経優位型」を緩和するために、まず腸の状態が良くして、「副交感神経」を活性化しようと提唱したのだ。
小林医師は、腸に血流が向かうためのエクササイズや、腸の状態をよくするヨーグルトの摂取などが、自律神経のバランスを整え、副交感神経を活性化すると指導している。
以上、3つが日経ヘルス誌と日経ヘルス プルミエ誌が取材を通して見出してきた健康系の3大トピックス。人々の健康意識が高まり、従来ならば軽視されてきた見た目や姿勢、腸の状態についてもまっすぐ向き合おうという機運が高まっている。多忙な1年を過ごしてきた日本経済新聞電子版の読者も、年末年始は「年齢より老けて見えてはいないか」「猫背でないか」「便秘がちではないか」など、ご自身の体を点検していただけると幸いだ。
日経ヘルス編集長。東京大学大学院(農学系)を修了。1991年に医師向けの専門雑誌『日経メディカル』の記者として取材をスタート、98年からの『日経ヘルス』記者生活でも、医学と科学をベースに取材・編集を担当。08年から現職。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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