ドラマからコント番組、声優、演歌まで、活動範囲広げるAKB48の戦略

グループの人気が定着して、個々のメンバーの人気浸透が求められるようになったAKB48。今年も様々なジャンルでメンバーが活動を見せているが、昨年と比較したときに注目すべきポイントは、二つある。
一つは、メディア活動を展開するメンバーが、知名度の高い主力メンバー以外にも拡大していること。もう一つの特徴は、複数のメンバーが出演するケースが増えていることだ。
2011年は、篠田麻里子や大島優子の月曜9時の連続ドラマ出演のように、外部のクリエイターに単独のメンバーが抜てきされて出演するケースが多く、必ずしもAKB48ファン層とターゲットが重ならない場合もあった。これに対して2012年は、AKB48ファン層を視野に入れたプロジェクトが多い。
■声優オーディションを実施

2012年春には、AKB48メンバーが声優を務めるテレビアニメ『AKB0048』がスタートする。キングレコード・スターチャイルドレーベルで『新世紀エヴァンゲリオン』などのヒット作を手がけた大月俊倫氏の提案で「AKB48を題材としたアニメ」の企画が立ち上がったのは、2010年秋。『マクロスF』などを手がけたことで知られ、『AKB0048』の原作と総監督を担当する河森正治氏は「劇場公演を中心に取材を始めたが、ファンはAKB48の舞台裏も見ているので生身にはかなわない。SF的なテイストを加えて描いたほうが弾けると思った」と語る。
当初は声優にメンバーを起用する構想はなかったが、「選抜総選挙前の緊張感、ガチ感を見ていて、メンバーの起用に変更」(河森氏)。AKB48グループのメンバーのうち約200名が参加して、声優オーディションが行われた。
オーディションでは、キャラクターの年齢や絵柄との相性も考慮して選定。河森氏によると「演技力はあるけど、個性が強すぎて、"あの人だ"と分かりすぎてしまうという場合もあった」という。 声優に選ばれた9人の「アニメ選抜」の中には選抜総選挙で上位に選ばれた渡辺麻友もいるが、まだ一般的には知名度の高くないメンバーも含まれ、ここから新たな才能が発掘されそうだ。
スターチャイルドレコード制作グループの尾崎光洋氏は「AKB48を知らない人も楽しめる番組を目指す。子どもたちにも見てもらいたいので、『なかよし』『別冊フレンド』など4誌で先行スピンオフコミックが連載中です」と話す。
AKB48のメンバーたちが未知の分野に挑戦しているという点では、ひかりTVで配信されているコント番組『AKB48コント 「びみょ~」』も異色だ。
秋元康総合プロデューサーの下で、番組プロデューサーを務めるのは、昨年までフジテレビに在籍して『とんねるずのみなさんのおかげです』に携わり、現在はAKB48の運営会社・AKSのコンテンツビジネス本部の本部長を務める松村匠氏。松村氏は「メンバーはあらゆる活動に一生懸命。コントにも全力で取り組んでおり、可能性を感じている」と話す。
『びみょ~』は、秋元氏の判断により、お笑い芸人などを出演者に入れずに、メンバーだけでコントをするという、チャレンジングな番組だ。しかし数多いメンバーを様々な組み合わせによって出せるという優位性があり、そこから新たな化学反応が生まれているようだ。
多くのメンバーがキャラクターになりきっているなかで、横山由依が戦隊風コスチュームで登場する"疑心暗鬼戦士ホンマヤン"や内田眞由美が着ぐるみで演じる"岩"などがファンの間で人気。声優選抜と同様、多彩な才能を持った若いメンバーにとって大きなチャンスとなりそうだ。

演技の分野では、『AKB0048』の声優にも選ばれ、2月29日にソロCDデビューした渡辺麻友が、現在放送中の『さばドル』(テレビ東京系)で初主演。
AKB48の全メンバーが出演した昨年放送の『マジすか学園2』の製作委員会担当コンテンツプロデューサーを経て、今回の『さばドル』のプロデューサーを務めるテレビ東京コンテンツビジネス部・合田知弘氏は「渡辺さんは『マジすか学園2』で"ネズミ"という物語に一石を投じる個性的な役を快演して、演技力と存在感を感じていました」と起用の背景を語る。
渡辺が演じたのは、38歳の高校教師が年齢のさばを読んで17歳のアイドル「渡辺麻友」として活動しているという1人2役。
「番組ホームページには、"AKB48のことは知らなかったけど、たまたま見たら面白かった"という年配の視聴者の方の声も届きました。幅広い層にアピールしそうです。ドラマが主人公の成長物語になっているので、渡辺さんの成長とシンクロする部分もあったと思います」(合田氏)
ドラマには、チーム4の市川美織、乃木坂46のメンバーも出演した。
■クリエイター心をくすぐる
そのほか、3月24日公開の映画『ウルトラマンサーガ』には、派生ユニットDiVAの4人(秋元才加・宮澤佐江・梅田彩佳・増田有華)をはじめ、佐藤すみれ・小林香菜、チーム4の島田晴香という計7人のメンバーが出演。

ソロ活動としては、岩佐美咲が『無人駅』で徳間ジャパンコミュニケーションズから、AKB48メンバーとしては3人目となるソロCDデビュー。もともと演歌を歌うのが好きで、昨年、山川豊・氷川きよしら多くの演歌歌手が所属する長良グループに移籍して、演歌のレッスンを積んでいた。
へたれキャラで人気メンバーの一人に急成長した指原莉乃は、1月にスタートした『ミューズの鏡』(日テレ系)で連ドラ初主演。その主題歌で、3月にエイベックスからソロCDデビュー。
主力メンバーのソロ活動も引き続き精力的で、前田敦子は西村賢太の芥川賞受賞小説を映画化した『苦役列車』のヒロインを演じる。『リンダ リンダ リンダ』や『天然コケッコー』などを手がけ、女優を魅力的に描写する山下敦弘監督の作品だけに、前田の女優としての新しい一面が見られそう。
『AKB0048』を手がける河森氏は、「AKB48を見ていると、メンバー同士もファンもお互いにせめぎあいをしているので、物語が生まれてくる"創出装置"として魅力的」と語る。
AKB48が幅広い分野に活動を広げているのは、うまみのあるコンテンツビジネスというだけでなく、AKB48を使って作品を作りたくなる「クリエイター心」をくすぐる要素が満載なのだろう。
今年は、AKB48のメンバーが歌以外においても実力を付けて、これまであまりスポットが当たらなかったメンバーも脚光を浴びる機会が増えるに違いない。
(ライター 高倉文紀)
[日経エンタテインメント!2012年3月号の記事を基に再構成]
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