今までは共感してほしい、感動してほしい、という思いで歌詞を書いてきましたが、この曲で歌っているのは、すべて自分と祖母だけの思い出ですから。

だから最初にこの曲を聴いた人が「感動した」と言ってくれたときは、びっくりしました。「なんで? だってこれ全部私のことを歌っているだけなのに」って。

自分と祖母との極めて個人的な体験に多くの人が共感してくれた。その鍵は「固有名詞」にあったと植村は話す。

これまでは「個人的すぎるかな?」と思った言葉は、より普遍的な表現に言い換えていました。でも、そうすることで、逆にぼやけてしまっていたと気づきました。

『トイレの神様』では「新喜劇」「鴨なんば」「五目並べ」と固有名詞を歌っています。そうすることでイメージが具体的になり、「僕は一緒に“お雑煮”を食べた」「私は“将棋”で遊んだ」と、リスナーの記憶の底を刺激したんですね。

何の変哲もない、1人の女の子が祖母と暮らしてお別れするまでの話。でも誰もが必ず通る道。生きていくうえで、重要なポイントというのはみんな同じなんだな、ということが分かった。これは大きな発見でしたね。シンガーソングライターとして大きな成長ができたと思っています。

自分の思い出を歌って、聴いた人が感動してくれる。シンガーソングライターって楽しいなと思いますね。

【植村さんの座右の銘】
「いつも笑っていられるように」
 これは私が19歳のときに生まれて初めて作った楽曲のタイトルです。
 子どものころから、「花菜ちゃんと話したら元気が出てきて、気がついたら笑っていたわ」と言われるのが一番うれしかった。
 一生懸命生きるほど、つらかったり、悔しかったり、思い通りにならないこともたくさんあるかと思いますが、そんな時こそ笑顔で乗り越えられたらいいなと思っています。

(音楽ジャーナリスト 麻生香太郎)

[日経エンタテインメント!2010年11月号の記事を基に再構成]