相次ぐドラマ化、「グルメマンガ」はB級・自炊の時代
食べ物や飲み物を主題としたグルメマンガは、昨今のマンガ界において最もホットなジャンルの一つだ。この1年程度で見ても『花のズボラ飯』『信長のシェフ』『めしばな刑事タチバナ』『お取り寄せ王子飯田好実』など、テレビドラマ化した作品が相次いでいる。
昨今のグルメマンガは、かつての『美味しんぼ』ほどの大ヒットとまではいかないものの、中ヒット作を手堅く量産しているのだ。
美食、B級、食材からバトルものまで
もともとグルメは人間の本能に根ざしたジャンルであるだけに、誰もが親しみやすい。食事はおおむね毎日行う行為だし、誰もが一家言持っている。
さらに最近のグルメマンガは、実に多彩だ。『美味しんぼ』のような美食系もあれば、『めしばな刑事タチバナ』のようなB級グルメ系もある。かと思えば『駅弁ひとり旅』『信長のシェフ』のように鉄道や歴史など別の人気ジャンルとのコラボ作品もある。『築地魚河岸三代目』では、魚介類という食材そのものにスポットを当てる。さらには『少年ジャンプ』連載の『トリコ』のようなバトルマンガまで存在する。
今どきのグルメマンガは、豊富なバリエーションで、あらゆる読者層のニーズを漏らさず拾い上げているのだ。
読んで役立つ作品がトレンド
現在のグルメマンガのトレンドを大きくくくると、3つのキーワードが浮かび上がってくる。「細分化」「B級グルメ」「自炊」だ。
まず「細分化」だが、これは取り扱う料理のジャンルがどんどん細かく分かれて専門性が増していることを意味している。
かつてのグルメマンガといえば『包丁人味平』のような料理勝負マンガがメインであり、一人の料理人が和洋中など、複数のジャンルの料理をこなしていた。しかし1992年の『将太の寿司』のヒット以降、料理ジャンルを限定することで、各分野ををより深く紹介する作品が増えてきている。『う』はうなぎ専門、現在は連載が中断しているが『ダシマスター』は料理のベースとなる「ダシ」だけにこだわっており、「細分化もここまで来たか!」と驚かされる。
「B級グルメ」は、バブル崩壊以降の不況や、昨今のB級グルメブームの影響で、このところ特に増加している。99年の『駅前の歩き方』あたりに端を発し、『めしばな刑事タチバナ』でその路線は極まった感がある。
「自炊」もトレンドの一つだ。これは「B級グルメ」にも共通していえることだが、料理マンガでどんなに「これはおいしい」と言われても、高くて手が届かない、素材が手に入らない、自分で作れないとなると多くの人にとって実用的ではない。読んで役立つ、自分で味わえる作品が増えたことで、グルメマンガの間口はより広がったのだ。
すでにグルメマンガは、各マンガ誌においてなくてはならない存在となっている。今後も、新機軸の作品がどんどん出てくるに違いない。
(日経エンタテインメント! 芝田隆広)
[日経エンタテインメント! 2013年5月号の記事を基に再構成]
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