それでも「子宮頸がんワクチン」の摂取検討を
子宮頸がんの90%以上は、主に性行為によって感染するヒトパピローマウイルス(HPV)が原因。ワクチンは発がん性のある15種類のHPVのうち、最も発がんリスクと感染率が高い16型、18型(図1、図2)への感染を予防するものだ。


今回、積極的な接種勧奨が中止されたのは、ワクチン接種後、複合性局所疼痛症候群(CRPS)といわれる体の痛みやしびれ、歩行困難などの訴えが相次いだため。日本産科婦人科学会は、「安全性が確認されるまでの間、強い推奨を一時中止するという勧告は妥当」との声明を出し、独自調査を行うとする。
「不安な人は積極的接種勧奨が再開してから受けてほしい。すでに1~2回打った人は間隔が空いても3回接種することが重要だ。WHO(世界保健機関)は、日本の今回の副反応の状況も踏まえたうえで、HPVワクチンの安全性と効果を強調する声明を出している。冷静に判断してほしい」と自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科の今野良教授は指摘する。
採血、注射、針を刺す医療行為、外傷などが原因で自律神経が過剰に活性化することによって起こる慢性的な痛み、運動障害、発汗異常など。日本赤十字社の報告によると献血でも100万人に2人(2011年度)発生している。思春期女子に多く、オランダでは年間10万人に14.9人発症との報告も。重症化を防ぐには、ペインクリニックなど痛みの専門家による早期治療とリハビリが重要。
「ワクチンとの因果関係は厚労省の検討会が調査中だが、副反応の頻度(図3)はほかの予防接種に比べて多いわけではない。接種後に痛みが続く人は、できるだけ早く痛みの専門家の治療を受け、リハビリを行うことが大切。思春期の女性の筋肉注射で起こりやすい副反応の失神は、横になった状態で接種すれば予防できる」。そう強調するのは横浜市立大学附属病院化学療法センターの宮城悦子准教授。
調査中の現在も対象年齢の希望者は公費助成が受けられる。
「120カ国以上がこのワクチン接種を行っており、CRPSも報告されているが定期接種を中止した国はない。副反応が出た人の補償はしっかり行うべきだが、非科学的な情報に振り回されないようにしてほしい。性交渉デビュー前の女性がワクチンを接種し、集団免疫(図4)ができれば、子宮頸がんによる死亡を7割減らせる。ワクチンと検診で子宮頸がん死は激減するはず」と今野教授は話す。
大勢の人がワクチンを接種することで社会、国全体の発症率を下げ、病気を撲滅すること。天然痘はワクチンの接種による集団免疫で撲滅された。ワクチン接種は、個人を感染や病気の発症から守ると共に集団免疫を高めるのが大きな目的。子宮頸がん予防ワクチンでは、10代女性の接種率が70%以上になれば、子宮頸がん患者が70%減ると試算されている。
この人たちに聞きました

自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科、教授。1984年自治医科大学卒業。東北大学勤務などを経て、08年より現職。子宮頸がん征圧をめざす専門家会議実行委員長。

横浜市立大学附属病院化学療法センター、准教授。1988年横浜市立大学医学部卒業。神奈川県立がんセンター婦人科医長、横浜市立大学産婦人科准教授などを経て08年より現職。専門は婦人科腫瘍学。
(医療ライター 福島安紀)
[日経ヘルス2013年9月号の記事を基に再構成]
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