長年悩まされた花粉症、肥満治療に「期待の新薬」続々
花粉症の根治も期待できる新免疫療法
今年、注目したい新薬は図1のとおり。最大の目玉は花粉症治療向けの新薬だ。
最近の研究では5人に1人が発症しているとの報告もある花粉症。日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科の大久保公裕教授は「小児期の発症者も増えており、若年発症者では重症化する傾向がある。花粉症にはまだまだ新たな治療の選択肢が必要」と話す。そんな中、新たな治療として注目したいのが舌下免疫療法だ。
これは花粉症を引き起こすアレルギー物質であるスギ花粉のアレルゲン(抗原)を毎日少量ずつ投与し、体にスギ花粉に対する「慣れ」(免疫寛容)を生じさせて症状が出ないようにする治療。症状を抑える「対症療法」である従来薬に対し、舌下免疫療法は花粉に対するアレルギー反応が起こらないようにする「根治治療」ともいえる。従来から免疫療法はあったが、注射剤のため、頻回な通院が必要で、患者の負担が大きかった。
新薬「シダトレンスギ花粉舌下液」での治療は、自宅でアレルゲンを含んだ少量の液剤を毎日、舌の下にたらす。最初はごく少ない量から始め、徐々に増やし、維持量に達したら、その後は毎日一定量を使い続ける(下の囲み)。効果は少しずつ表れ始め、1年半後以降はほとんど対症療法薬を使わなくてもよくなったり、症状が全く出ない状態、つまり「完治」するケースも多いという。
ただし、花粉飛散がはじまる2カ月以上前に治療を開始する必要があるので、今年は花粉の飛散が収まる初夏ごろから、耳鼻咽喉科で相談するといい。
花粉症関連ではほかに、2013年11月発売の「アレジオン点眼液」も。これは新タイプの抗ヒスタミン剤を含んだ点眼薬で、1回1滴、1日4回(朝、昼、夕方、就寝前)使うことで目のかゆみなどを起こりにくくする。
【治療法】
スギ花粉のアレルゲン(抗原)を含んだ液剤を、毎日1回、舌の下側にたらす。
【開始時期】
スギ花粉が飛散し始める2カ月以上前に服薬を開始する。花粉症の季節が終わった後から、始めることもできる。
【増量期】
治療開始から2週間が増量期。最初は、少ないアレルゲンの量から始め、2週間かけて少しずつ増量する。
【維持期】
薬剤量が維持量に達したら、あとは毎日、一定量を舌の下に投与する。2年間続けることが望ましい。
【効果】
2年の間に効果は少しずつ高まっていく。これまでの研究で、花粉症から完全に解放される人は30~40%ほどだが、残りの人も症状が軽減され、薬を飲まなければいけない期間が大幅に短縮されることが分かっている。
血液中の糖を尿中に排出させる糖尿病薬
糖尿病薬では新しい作用機序のSGLT-2阻害薬に注目。その第一弾として2014年1月に承認されたのが「スーグラ錠」。従来薬のようにインスリンの働きを良くしたり、分泌量を増やしたりするのではなく、血中の糖を尿中に排出することで血糖値上昇を抑える(図2)。
国立国際医療研究センター病院の野田光彦糖尿病研究部長は「腎臓で尿が作られるとき、最初に作られる原尿には基本的に血中と同じ濃度の糖が排出されるが、そのほとんどは尿細管で再吸収され、血液に戻される。この糖の再吸収に重要な役割を果たすのがSGLT-2というたんぱく質」と解説する。新薬はこのたんぱく質の働きを阻害して血液への糖の再吸収を防ぎ、糖を尿中に排出して血糖値の上昇を抑える。
これまでの薬では体重コントロールに苦労するものもあったが、SGLT-2は体重が増えにくいという長所も。「副作用には多尿や頻尿による脱水、低血糖、膀胱(ぼうこう)炎といった尿路感染症などがある。長期服用したときの血液中のミネラルへの影響など、分かっていないことも多いので、当面は必要に応じて従来の薬に追加するという慎重な使われ方をするだろう」(野田部長)
肥満症、アルコール依存症、月経困難症の薬も
20年ぶりの肥満症の新薬として昨年9月に承認された「オブリーン錠」も注目。膵臓(すいぞう)から分泌される脂肪の分解酵素、リパーゼが消化管の中で働くのを阻害し、消化管からの脂質の吸収を抑制することで体重を減少させる。2型糖尿病で脂質代謝に異常があり、BMI25以上の肥満体の人の治療に使われる。
近年女性にも増えているアルコール依存症治療薬では、「レグテクト錠」の使用が広がりそう。アルコール依存は、脳で神経伝達物質であるグルタミン酸が増え、その刺激が「飲酒欲求」となって飲酒が習慣になってしまう病気。新薬は、グルタミン酸がかかわる神経の興奮を抑える新しい作用機序で、断酒をサポートする。
一方、「ルナベル配合錠ULD」は従来より少ない0.02 mgという低用量のエチニルエストラジオールを配合するホルモン薬。月経困難症への治療効果が認められた世界初の超低用量ピルだ。
この人たちに聞きました
日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科、教授。「舌下免疫療法で良い結果を得るには、患者が積極的に治療に参加し、2年間の治療をしっかり行うことがポイント」。近著に『花粉症は治せる! 舌下免疫療法がわかる本』。
国立国際医療研究センター病院糖尿病研究部長。糖尿病治療の第一人者。「糖尿病治療は食事療法・運動療法が第一。最近は、それをサポートする医薬品の選択肢が増えてきました」
(科学ライター 荒川直樹、構成 日経ヘルス黒住紗織)
[日経ヘルス2014年3月号の記事を基に再構成]
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