Office 2010のWeb版は「期待はずれ」(後編)
企業向けRTM版のExcelとPowerPointを辛口レビュー
マイクロソフトは2010年6月17日に「Office 2010」を一般発売するが、製品版に当たるRTM版(製造工程向けリリース)は既に完成しており、企業向けのボリュームライセンス版も提供が始まっている。日経パソコン編集部は、このRTM版をいち早く評価。前編に続き、Office 2010で最も注目される新機能「Webアプリケーション版」(以下、Web版)を詳しく解説する。今回はExcelとPowerPointのWeb版を見ていく。
Excelも文字編集が中心、グラフは作れず
前編で述べたように、WordのWeb版である「Word Web App」はあまりに機能が物足りない。この点は、ExcelのWeb版である「Excel Web App」も同様だ。
Excel Web Appは、セルの編集や数式の編集については十分な機能を備えるが、グラフを新規に作成できないのはいただけない。既存のグラフは表示できるし、セルの値を変更すれば、グラフにも反映される。Excel 2010の新機能「スパークライン」の表示にも対応するが、Excel Web App上で新たにグラフやスパークラインを作ることはできない。
このほか細かい点だが、オートフィル機能による連続データの入力、ドラッグ・アンド・ドロップ操作によるセルの移動やコピー、複数セルの結合などはできず、シートの印刷機能も備えない。Excel Web Appの編集機能は、2009年9月からテクニカルプレビューが一般公開されているが、製品版でもほとんど変化が見られなかった。画像の挿入機能や図形描画機能が省かれている点については、「Excelは表計算ソフトだから数値の編集と計算ができればよい」とあきらめるにしても、グラフの作成機能くらいは搭載してほしかった。Excelで普段よく使う機能の多くが利用できない点にはがっかりだ。
図形やコメントがあると編集不能に
さらに幻滅したのは、Excel Web Appでは、図形やコメントを含むファイルを編集することができないこと。「図形やコメントの編集ができない」という意味ではない。これらを含むファイルは、「そもそも編集モードで開くことができない」のだ。閲覧モードでは開くことができるが、その場合も図形やコメントは全く表示されない。
コメント機能を使うと、"付せん"のようにセルにメモを張り付けたり、共同作業時にほかの人に伝えるメッセージを残したりできる。よく使う機能だが、これがあるだけで、Web版ではファイルを活用できなくなってしまう。実用上、大きな障害となるだろう。
PowerPointのスライドはレイアウトが固定
WordとExcelを見る限り、Web版は図形やテキストボックスなどの描画オブジェクトを苦手としているようだ。とすれば、こうした描画オブジェクトを編集の主体とするPowerPointのWeb版はどうなるのか。
さすがに「PowerPoint Web App」では、編集モードでも描画オブジェクトの表示は可能だった。しかし、新たに図形やテキストボックスを挿入することは、WordやExcelと同様に不可能だ。既存の図形やテキストボックス、SmartArt内の文字は編集できるものの、サイズやレイアウトの変更はできない。やはり、Web版では文字の編集が中心となると考えた方がよい。ただし、図(画像やクリップアート)に関しては、枠を付けるなどの「スタイル」を設定したり、画像ファイルを入れ替えることが可能になっている。
テンプレートから選択してスライドを追加
PowerPoint Web Appの「挿入」タブを見ると、「図」「SmartArt」というボタンが並んでいる。これを見ると、「新規の図やSmartArtを自由に挿入できるのではないか」と思うかもしれない。ところがこれらのボタンは、通常のスライド上では灰色になっていて押すことができない。実は、PowerPoint Web App上で新しいスライドを追加したときに限って利用可能になる。
具体的には、「ホーム」タブで「新しいスライド」ボタンを押すと、スライド1枚分のテンプレートが一覧表示される。ここから1つ選択すると、プレゼンテーションに新しいスライドを追加できる。テンプレートには、タイトルなど文字要素を入れたり、図やSmartArtを挿入したりするための枠(プレースホルダーと呼ぶ)があらかじめ配置されていて、この枠を選択したときにだけ、「挿入」タブの「図」や「SmartArt」のボタンが有効になる。つまり、図やSmartArtは新規に追加できるのだが、テンプレートに用意された決まった位置にのみ可能、という制限があるわけだ。
現状では実用的と言い難いが、今後の進化に期待
このように編集機能が制限されたPowerPoint Web Appだが、最大の欠陥は、表の編集ができないことだろう。新規の表を挿入できないのはもちろんだが、既存の表について、その中の文字を書き換えることすらできない。スライド内に表を作るのはよくあること。Web版を「ちょっとした文字の修正に使える簡易版」と位置付けるにしても、表の文字を編集できなければ、十分な修正も果たせないことになる。
以上、Word、Excel、PowerPointのWeb版についてそれぞれ見てきたが、結論としては「現状のままでは、あまり使いものにならない」と感じた。もともと機能を制限した簡易版と言われていたが、ここまで機能を制限されると、実用上の問題に多く直面するだろう。日本ではパソコンへのOfficeのプリインストール率が高いので、そもそもWeb版が必要になるケースが少ないかもしれない。そうだとしても、Office 2010の目玉の1つとされるWeb版がこの程度の代物では、何とも淋しいものだ。
ただ、今後に進化については期待できるかもしれない。米マイクロソフトで開発チームを率いるOffice生産性アプリケーション シニアバイスプレジデントのアントワーン・レブロンド氏は、2010年1月に行った『日経パソコン』のインタビューの中で、「先のスケジュールは未定だが、Windows Live版については、Windows Liveの更新とともに、より頻繁に機能拡張が可能だ。そのため、パソコン上のOfficeよりも頻繁に更新していくことを考えている」と明言した。2010年4月末には、Windows Live版の限定的なベータテストが始まっているが、6月中旬の正式公開に向け、その中身も毎日のように更新されているという。
冒頭にも説明した通り、今回のレビューはすべてオンプレミス版Office Web AppsのRTM版を利用して行った。その公開は2010年4月22日。およそ2カ月遅れで公開されるWindows Live版では、多少は機能が改善されている可能性がある。Office Web Appsの今後の進化を強く願いたい。
(日経パソコン 田村規雄)
[PC Onlineに2010年5月7日に掲載された記事を基に再構成]
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