結婚より「卵子の凍結保存」を希望する米国女性米国NPの診察日記 緒方さやか

そんな彼女が最近、マンションを購入したというので、ブランチをごちそうになりにお邪魔した。

「本当に、会うのは久しぶりだね!」とすてきなお宅でベーグルをかじりながら言うと、「そうね。先月とかは、体の調子が良くなかったから、あんまり人と会わなかったしねー」とA。

「え、なんか病気でもしたの?」

「いや、卵子を採取した後、なかなか疲れが取れなくてさ」

卵子を採取し、受精した卵を子宮に返すIVF(体外受精)は、不妊治療としては一般的だ。IVFによって生まれた子供も知っている。

しかし、彼女は不妊症ではないし、すぐに卵子を戻す予定もない。本人によると、まだ今は結婚する相手がはっきり決まっているわけではないから、40歳になる前に卵子を凍結保存したかったのだという。若い女性が、がん治療を受ける前に卵子を凍結することがあるのは知っていたが、健康な女性が行うのは非常にまれなケースだとばかり思っていた。しかし、よく考えてみると、最先端技術を複数の病院が競うニューヨークに住む、裕福な独身女性こそ、まさにその「非常にまれなケース」なのだった。

医学的理由なしに「卵子凍結希望」が8割

例えば、ニューヨーク大学病院の生殖医療センターの卵子凍結に関するサイトを見てみると、同センターで卵子を凍結した依頼者のうち約8割は医学的理由なしに凍結を希望する人々で、平均年齢は38歳とある。もちろん、ホルモン注射を打ち、卵子を摘出する手術を受けるわけだから体に負担はかかる。ジムに行くのが日課の彼女は、「一番つらかったのは運動を数週間禁止されたことね」と言っていた。そんな話を聞き、「こんな、ブランチを取りながら話題に出るような、気軽な話なのか」と、再び驚いた。ちなみに、手術の費用は1万5000米ドル(日本円で約150万円:1ドル100円で試算)だったという。ちょうど、IVFを1回(1周期)行うのと同じくらいの値段だそうだ。

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