オスカー男優がドラマ参戦 猟奇殺人に刑事役で挑む
海外ドラマはやめられない!~今祥枝
ゴールデン・グローブ賞授賞式中継の裏番組として、2014年1月12日に初回放送となった米国のケーブルテレビHBO(Home Box Office)の刑事ドラマ『True Detective』。全8話で完結するミニ・シリーズ形式の本作は、平均視聴者数は1100万人という好成績を樹立しました。同局のストリーミングサービスでは、アクセスが集中してシステムがダウンし、HBOが公式ツイッターで釈明するというアクシデントも話題を呼びました。
ウディ・ハレルソンとマシュー・マコノヒーという映画スターが主演とあって、放送前から抜群に注目度が高かった本作。さらにタイムリーだったのは、『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー賞主演男優賞ほかに輝いた時の人、マコノヒーがテレビシリーズに本格参戦した作品だということです。
マーティとラストは、かつてルイジアナで起きた猟奇殺人事件をコンビで捜査した刑事でした。17年後の現在、若い女性の全裸の死体の背中に、以前と同じく謎のうず巻き模様が発見されたため、2人は証言を求められることに。現在と過去を交互に描きながら、犯人は誰なのか、今では深い溝がある2人のこれまでが描かれていきます。
手首を縛られた女性の死体は目隠しをされ、頭には鹿のツノのような冠、現場には小枝を束ねた気味の悪いシンボルが…。淡々と描かれる過去の捜査と証言の様子は、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』や『ホミサイド/殺人捜査課』、事件の猟奇性はドラマ『ハンニバル』や映画『セブン』のごとく。
全8話ゆえの密度の濃さ
クリエイター(企画・脚本・製作総指揮)は『キリング/26日間』の脚本を手がけたニック・ピゾラット、演出は日系人監督のキャリー・ジョージ・フクナガ。この2人が密な世界観を作り出すべく、全エピソードを手がけています。これは多くの脚本家や演出家がかかわる米国ドラマでは比較的珍しく、同じくHBOの秀作『OZ/オズ』のトム・フォンタナや『ニュースルーム』のアーロン・ソーキンなどを想起させます。
人気が出ても次のシーズンに物語を無理に引っ張らず、ひとつの作品として完成させる。この方針により、本作には8話で1本の映画を見たかのようなカタルシスが生まれました。こうした密で映画のような作りにするためには、前述のように固定した2人が担当するといったスタイルが最適かもしれません。
本作はシーズン2の制作が決定していますが、新たなスタッフ・キャストで違う場所の異なる事件を描くとか。これは、『アメリカン・ホラー・ストーリー』形式と言えるでしょうか。
映画で引っ張りだこのマコノヒーは、「ほぼ間違いなく、ここ最近はテレビで良質のドラマが作られている」とコメントしています。近年の業界のトレンドを裏付けるものと言えるでしょう。
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●今月のオススメドラマ
『キリング/26日間』
美少女殺人事件を発端に暴かれる陰謀と秘密
デンマークのテレビ史上最高の視聴率を獲得し、イギリスを筆頭に欧米各国で大ヒットを記録した『THE KILLING/ザ・キリング』の米国リメイク版。曇天のシアトルを舞台に、失踪した17歳の少女ロージーが遺体で発見されたことから、郊外の静かな町で起きている、様々な問題が浮き彫りになっていく。
捜査を担当するのは、べテラン刑事リンデンと新たに殺人課に配属された若き刑事ホールダー。ロージーの友人や学校の教師、家族、地元政治家から刑事までもが事件の容疑者となり、FBIも捜査に加わり事件は二転三転する。1日1話で描き、26日間で犯人を突き止めていくスタイルの本作は、最後の瞬間までどんでん返しに気が抜けないサスペンスだ。2011年のエミー賞では、主要6部門にノミネートされた。
リンデン役には、本作で注目を集めてエミー賞主演女優賞候補になり、『ワールド・ウォーZ』など映画でもひっぱりだこのミレイユ・イーノス。相棒ホールダー役のジョエル・キナマンも、映画『ロボコップ』で主演に抜てきされ、本作の演技で大躍進を遂げた。
映画&海外ドラマライター。女性誌、情報誌、ウェブ等に映画評やインタビュー等を寄稿。「BAILA バイラ」「eclat エクラ」「日経エンタテインメント!」映画サイト「シネマトゥデイ」などに連載中。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP社)。
[日経エンタテインメント! 2014年5月号の記事を基に再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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