50代や60代の女性、特に運動をしている方を見て、「実に元気だ」と、お感じになる人も多いと思う。なんと、その秘密が男性ホルモンにあると最近の研究でわかってきた。
「女性」だった人が思春期の男性に生まれ変わる?
「更年期以降の女性はエストロゲン(女性ホルモン)の分泌が低下し、健康を守るためにテストステロン(男性ホルモン)が重要な働きをするようになる」と、日経ヘルス12月号の取材チームに話すのは、帝京大医学部泌尿器科の堀江重郎主任教授。
いわば、「女性だった人が思春期の男性に生まれ変わるといってもいい」と堀江主任教授はいう。なるほど、私自身、5歳刻みの年齢別で競う「マスターズ水泳」の大会に15年来参加しているのだが、50代や60代の女性のスタミナや速さには常々驚いてきた。“思春期の男性に生まれ変わっていた”のだとすれば、実に納得がいく。
この話の根拠となっているのが、前回のこのコラムでも紹介した2010年6月開催の日本抗加齢医学会総会のシンポジウム「男性ホルモン研究最前線 今年の話題」で、堀江主任教授が紹介したデータである。テストステロン(男性ホルモン)が、これまで教科書的に知られていた以上に女性の体で働いていて、これが閉経期以降の女性には特に欠かせないことがデータで示されると、会場にいたアンチエイジングの専門家が大いに沸いた。
活性のあるテストステロンの量を反映する指標として、最近注目されているのが唾液中の濃度。堀江主任教授がこれを測定してみたところ、女性は男性に対して65歳未満で3分の1と、従来考えられていたレベルよりずっと濃度が高く、さらに65歳以上になると、女性と男性の濃度がほぼ等しいくらいだったのだ。
女性にも男性にも共通する男性ホルモンの働き
体の活動に働く |
・筋肉や骨の質を高める |
・内臓脂肪の増加を防ぎ、血圧を下げ、糖尿病などを予防 |
・バランス感覚を保ち、運動機能を向上 |
精神の活動に働く |
・社会関係を保つ |
・リーダーシップを発揮する |
・新しいことにチャレンジする好奇心 |
・競争心を保つ |
従来、教科書的には、女性のテストステロン量は男性に対して10分の1とされていたのに対して、実際に唾液の調査でわかった活性のあるテストステロン量は女性でもかなり多く、閉経後では、男女差がない分泌量で、健康の維持に役立っているのだという。
右に最新発表でわかってきた効果をまとめたのでご覧いただきたい。高血圧などを予防し、体の動きのバランスを保ち、社会関係やリーダーシップにも必要とわかってきたのであれば、男性、女性の別なくできる限り、男性ホルモンを役立ててみたくなるはずだ。
筋トレや運動で男性ホルモン生成力が増す
そこで、男性ホルモンの維持、増加のさせ方について考えたい。
そもそも、女性の男性ホルモンはどこから来たの? と、思う方も多いはず。男性ホルモンは多くは精巣で作られるが、そのほか女性にもある副腎でも作られる。
そして、今、さらなる男性ホルモン合成の場として注目されているのが筋肉だ。男性ホルモンや女性ホルモンは、体内でDHEAという前駆体から作られるが、この前駆体はテストステロンの100~500倍の量が血中にある。そのDHEAを、精巣だけでなく筋肉(骨格筋)がテストステロンに変換していると、2006年ころから次第にわかってきたのだ。
つまり、精巣のない女性でも、精巣の働きのやや低下した男性でも、筋トレや運動の習慣を持ち、筋肉を活性化すれば、あまたある前駆体を利用して、テストステロンの量を維持できると考えられている。
実際、多くのアンチエイジング専門の医師が、「筋トレを含めた運動がホルモンの維持に役立つ」と指導している。また、最初に書いた、ほとんど毎日、水泳の激しい練習をして筋肉を活性化させている女性マスターズスイマーらの若さや元気さにも納得がいく。
いかがだろうか? ここまで、そのアンチエイジング効果が証明されてくると、運動嫌いの女性も、ぐうたらな男性も、筋トレや運動で、男性ホルモンレベルを高く維持したくなってくるのではないだろうか。
ちなみに、わたしも研究動向を無視できず、2008年の暮れからジムで筋トレを10年ぶりに再開しました。
藤井省吾(ふじい・しょうご)
日経ヘルス編集長。東京大学大学院(農学系)を修了。1991年に医師向けの専門雑誌『日経メディカル』の記者として取材をスタート、98年からの『日経ヘルス』記者生活でも、医学と科学をベースに取材・編集を担当。08年から現職。
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