「音楽の世界」広げるヘッドホン、3万円切る実力派
自宅はもちろん、通勤電車や街角のカフェ、出張先のビジネスホテルなど、あらゆる環境で音楽を楽しめるヘッドホン。近年は携帯音楽プレーヤーやスマートフォンの普及により、街角で数万円クラスのヘッドホンを組み合わせて使っている光景も珍しくなくなっている。
もちろんヘッドホンは、手持ちのパソコンで高音質の音楽を楽しめる「PCオーディオ」でも利用できる。なかなかスピーカーで大音量を流すことが許されない日本の住宅事情では、こちらをメインに使いたいという人も多いはずだ。ここでは音質にこだわる人のために、「イヤホン型」より音質で有利な「オーバーヘッド型」ヘッドホンの基本を確認していこう。オーバーヘッド型は、ヘッドバンドで連結された大型ハウジングで耳を覆うタイプである。
スペックよりも実際に試聴して選ぶ
オーバーヘッド型ヘッドホンは「密閉型」と「開放型」(オープンエアー型)に分類される。これはドライバー(スピーカー)ユニットを内蔵したハウジング部分が完全に密閉されているか、一部が開口しているかの違いだ。密閉型は外部の騒音を遮音できるため音楽に集中しやすく、低域を演出しやすいメリットがある。開放型は音の抜けがよく、レスポンス感に優れるというメリットがある。
逆に開放型は構造上、必ず外に音が漏れるため屋外では使用しづらく、密閉型は音がこもりがちで音質にも影響する、といったデメリットもある。
ヘッドホンの音質は全体の設計で大きく変わってくる。なかでも影響が大きいのは、音を実際に出すドライバーそのものだが、オーバーヘッド型のほとんどで使われている方式がダイナミック型だ。これは、単純に表現すれば通常のスピーカーユニットを小型化してハウシングに収めたもので、イヤホンでも広く使われている。
ヘッドホンの音質は、実際のところカタログでは判別がしづらい。ほとんどの製品ではスペックとして「再生周波数帯域」が掲載されているが、この範囲によって音質が良い、悪いとは一概に言えない。最近の家電量販店では試聴用ヘッドホンを豊富にそろえ、自由に聴ける店舗が増えている。なるべく実際に手に取り、音質はもちろん装着感などまで確認したうえで買いたいところだ。
カタログスペックとしては、「インピーダンス」という数値も掲載されている。これはそのヘッドホン固有の電気的な抵抗の大小を表したもの。数値が大きくなるほど、アンプ側のボリュームが同じ位置であっても、実際の再生音量は小さくなる。
具体的には、ヘッドホンアンプ回路の出力が小さい場合は、高インピーダンスのヘッドホンは鳴らしづらいということになる。実際の使用において問題となることは決して多くはないが、例えばオーバーヘッド型の高性能ヘッドホンをスマートフォンの内蔵ヘッドホン端子で聴こうとした場合などは、能力不足になるケースもある。そういった組み合わせを考えているなら、この点にチェックしておくか、ヘッドホンアンプの導入なども考えてみよう。
ドライバー口径が大型化
オーバーヘッド型の本格的なヘッドホンは、同じダイナミック型を採用したイヤホンに比べ、圧倒的に大型のドライバーを搭載できる。音質はドライバーのサイズだけで決まるわけではないものの、基本的に大型ドライバーの方が有利であることは間違いない。屋外での使用には抵抗がある人がいるかもしれないが、自宅など屋内利用が中心ならこちらのタイプを検討したい。
近年のトレンドとしては、やはりドライバー口径の大型化が挙げられる。このクラスでは製品に合わせて専用ドライバーが新開発されるケースも多く、ひとつのチェックポイントといえるだろう。
ハウジングの素材も、メーカーの製品戦略が表れる部分だ。低価格帯では、ごく普通のプラスチックも多い。しかし音質を追求すると剛性の高さが求められるため、一定の価格帯を超えるとアルミニウム合金を中心として金属製が増えてくる。音質に限らず見た目の質感や、使用時の満足感にも影響するため、無視できないポイントだ。
最近急激に増えているのが、脱着が可能で自分でも交換できるケーブルだ。これは断線など故障時に自分で対応できるというメリットもあるのだが、それ以上にケーブルを替えて音質の変化を楽しめるという観点が大きい。通常ケーブルとiPod対応ケーブルが付属する製品などは、うれしいオマケといえる。
まだ製品は少ないが、オランダ・フィリップスのセミオープン型は密閉型と開放型のメリットを取り入れた方式といえる。今後の動きにも注目したいところだ。
以下では、プロのレビューアーが選んだオーバーヘッド型ヘッドホン10機種を紹介する。
(PC・DTM系フリーライター 大坪知樹)
[ムック『これ1冊で完全理解 PCオーディオ2013-2014』(日経BP社)を基に再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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