コスメ売り場に工場 「ラッシュ」新コンセプト店の狙い
英国の自然派コスメ専門店「ラッシュ」の新コンセプト店が2012年12月8日、京都・四条通りにオープンした。ビル壁面から店内奥にいたるまで緑あふれる店舗で、同店がこれまで推進してきた環境活動「GO! GREEN」を体現した初のショップとなる。
売り場面積は約198平方メートルで、従来店の3倍の広さ。西日本の旗艦店と位置付けられる店内には、世界で初めて工場を併設。同店のウリである新鮮な"手作りコスメ"の製造販売も行う。
"キッチン"と呼ばれる工場は、国内では神奈川県厚木市の工場に次ぐ2カ所目。「京都は国内外から多くの観光客が訪れる。ラッシュのものづくりの現場を見てもらい、安心・安全なことを五感で感じてもらいたいから、京都四条通り店を西日本の製造拠点とした」(ラッシュジャパンPR担当)。
内装に国産木材や間伐材、京都近郊の原材料を使用するなど、環境に配慮したショップを前面に打ち出していく。
"シェフ"がコスメを手作り
店内は約300種類の自然派コスメを販売するスペースとキッチンと呼ぶ製造スペースのほかに、イベントを行うワークショップスペース、在来種の木々が植えられた箱庭で構成される。
なかでも注目なのが、世界初の「店舗内工場」。手作りで製造される工程を見られるようにガラス張りになっており、「シェフ」と呼ばれる製造スタッフが毎日約2キロの商品を手作りする。同店ではフェイスパック、クレイ洗顔など特に鮮度が求められる定番15種類を中心に製造。アイスクリームのようにケースに冷蔵された作りたてのコスメを量り売りで買えるのが一番のウリだ。
さらに、ここでは京都近郊の野菜や果物のほか、京都府宮津市の酢や丹波・丹後のハチミツ、丹後市の海塩など、関西圏から6種類の原材料を調達。「安心・安全、オーガニック、フェアトレード、新鮮といったキーワードに加えて、地産地消を仕入れの基本方針としている」(同社バイヤー)。原材料の鮮度を維持すると同時に、輸送にかかる二酸化炭素の排出量削減にもつながるという。
同店では、工場で製造体験できる限定企画を計画しており、ブライダルなどのギフト需要にも対応していく考えだ。
吉野の間伐材などを使った環境配慮型店舗
同店が掲げる活動への取り組みは、店内の随所で見ることができる。キッチンの白い壁には奈良県吉野産のスギ、棚や枝のオブジェは吉野産ヒノキ、ベンチとウッドフェンスには吉野産のコウヤマキを採用。什器や壁に使用する木材のうち80%に国産木材や間伐材など森林環境や地域社会に配慮した木材を使用している。
特に奈良県吉野の間伐材に注目したい。木材をコーディネートした国際環境NGO、FoEジャパンの中澤健一氏は「吉野は室町時代から続く日本最古の林業地。良質な木材を生産し、関西の発展を支えてきた。ところが、戦後の林業政策で質の悪い間伐材が増え、価格下落によって厳しい環境に置かれている。今回、店舗に使用したことにより、1.3ヘクタールの森林の整備間伐に間接的に協力できた」と話す。
ほかには、過疎化などで問題になっている里山のどんぐり材を展示用備品に使用。森林を壊さずに産地が明らかな木材を使用するフェアウッドの取り組みは、同店の大きな特徴のひとつとなっている。
さらに環境活動の一環として、ビルオーナーが以前使用していた家具も什器として使用。店内のワークスペースでは地域の環境団体や学校と定期的に勉強会やパネル展示を開催し、「社会問題を提起することでお客様の気づきのきっかけになればと考えている」(同社PR)という。
商品のユニークさと徹底したコスト管理で成長する「ラッシュ」
ラッシュは1994年、英国南西部の町、ドーセット州プール市で創業。毛髪学者のマークとその妻モー、美容セラピストのリズ、スキンケアエキスパートのヘレン、カラーセラピストのロウィーナの5人が立ち上げた。翌年、同市に1号店をオープンした後、コベントガーデン、キングスロードなどに次々と店舗を開設し、事業を拡大。現在、世界50カ国で822店舗(2012年9月時点)を展開している。
日本進出は1998年。神奈川県厚木市に工場を開設した後、翌99年3月、東京・自由が丘に日本1号店をオープンした。路面店だけでなく、ショッピングセンターにも積極的に出店し、14年間で152店舗に拡大。日本の自然派コスメブームをリードしてきた。
全商品を製造する工場は、英国、カナダ、オーストラリア、日本の4カ国にあり、厚木工場はアジアの製造拠点にもなっている。京都四条通り店の狙いと今後の出店計画などについて、ラッシュジャパンのアンドリュー・トーン社長に聞いた。
………………………………………………………………………………
――まず、京都に新コンセプト店を出店した理由は。
アンドリュー・トーン社長(以下、社長):「京都は歴史や環境に配慮した町づくりがされていて、ラッシュのコンセプトである『GO! GREEN』の考え方と一致した。入居するビルのオーナーが環境活動に積極的で、緑化活動を牽引するビルに出会えたことも理由のひとつ。世界有数の観光地でもあるので、キッチンを併設し、ものづくりの現場を見てもらえるようにした」
――環境活動に力を入れているが、具体的にはどう取り組んでいるか。
社長:「シャンプーの固形化を進めたことで保存料をフリーにし、ペットボトルの削減を図った。また、全店で使用済み容器の回収を行い、ここ数年でボトルは100%リサイクルに切り替えた。今年からラッシュの新しい容器にリサイクルする『ボトル・ツー・ボトル』にも取り組んでいる。ラッシュのアイコンといえる固形ソープはお客様が容器を持参することでパッケージレスになるし、工場に近い地域から原材料を調達することは輸送時に排出されるCO2(二酸化炭素)の削減にもつながる」
――店内には国産材を使い、商品の原材料には手間暇かけて作られた食品を使うなど、かなりコストがかかっている。
社長:「商品の製造原価はほかの大手化粧品メーカーの3~5倍高い。原材料や店舗など、コストをかけるところと抑えるところを明確にしている。例えば、容器はシンプルなものでいいし、できればゼロにしていきたい。不要ものは徹底的になくす考えだ。また、テレビCMや雑誌広告をしていないので宣伝費もかからない。店舗自体が広告なので、ゆっくり時間をかけて口コミで浸透すればいいと思っている。そのかわり、店舗スタッフの教育研修には時間をかけている。厳しい基準の試験をクリアすれば、キャリアアップできる」
――この14年間で多店舗化を図り、急成長したが、今後の戦略は。
社長:「日本進出3年目から出店を加速し、11年目まで年間20~30店舗を出店した。売り上げも毎年20~30%増のペースで伸ばしてきた。ここ数年は出店ペースを落とし、今年は5~8店舗の計画。同時に既存店のリニューアルやリロケーションに取り組んでいる。京都四条通り店のキッチンが成功すれば、他店にも導入していきたい」
「急成長から緩やかな成長期に入ったので、これからは内容の拡充に取り組む。良質な原材料を使った付加価値の高い商品であるにもかかわらず、これまではなかなか消費者に伝え切れていなかった。ブランド名は知っていても、中身を知らない人もまだ多い。なぜこの原材料を使うのか、より丁寧に伝えていきたい」
――具体的には。
社長:「店頭での接客はもちろんのこと、顧客とのコミュニケーションの場を増やしていく。2012年4月に発行したオリジナルのレシピ本はその一環。ラッシュで実際に使用している新鮮な原材料の良さを伝えるために、5人の有名なシェフにオリジナル料理を作ってもらった。今後もいろんな取り組みや工夫でラッシュの考え方を発信していきたい」
(ライター 橋長初代)
[日経トレンディネット2012年12月17日掲載]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。