誤解されがちだが、牛脂注入肉と成形肉は厳密には違う。牛脂注入肉は基本的にかたまり肉に牛脂などを注入したもの。成形肉は生肉や脂身、横隔膜(ハラミ)に酵素や植物たんぱくなどを加えて人工的にくっつけたもの。形を整えるために切れ端をくっつけた簡単なものから、複雑怪奇なものまでいろいろある。
「インジェクションは下ごしらえ」
針で調味液を注入して、人工的に肉質を変える――。こう聞くと、それだけで敬遠する人もいそうだ。ただ、似たような調理法は昔からあった。
代表的なのがフランス料理の「ピケ」という技法。子牛肉などの淡泊な牛肉にコクを加えるため、ピケ針で脂肪を差し込む。まさに脂肪の注入肉だ。
日仏料理協会編「フランス 食の事典」(白水社)によると、ピケ針とは「豚の脂肪、トリュフ、にんじんなどを、比較的小さな肉のかたまりや内臓肉、魚に差し込むための器具」とある。刺すときの擬音語が語源だという。「ラルース料理百科事典」など仏料理の専門書を読むと、仏では豚の背脂を使うことが多いようだ。
このピケ、菓子作りで聞いたことがあるかもしれない。タルト生地やパイ生地にフォークなどで穴を開けることを「ピケする」と言うことがある。肉の加工法から転じたようだ。
針を使って肉に調味液を染み込ませる技法は、ハムの製造でも一般的に使われている。好みはあるだろうが、食品の加工においては決して特異な手法ではない。
「どんな調味液を注入したのかが見えず不安」との声もあるだろう。ただソースや下ごしらえの材料も、分からないことが多い。実際、市販のソースにはピックル液と同じような添加物が使われている。これを厨房で使えば結果的には同じだ。厨房での加工と工場での加工。線を引くのは難しい。
フォークなどで刺したり、パイナップルなど肉を軟らかくする酵素を含む調味液につけ込んだり。料理人は肉をおいしく食べるために様々な工夫を凝らす。「インジェクション技術はシェフが店舗で行う下ごしらえと同じ」とA社は説明する。
同社が原料として使うのは主にBSE(牛海綿状脳症)などの疫病が出たことがない豪州産とニュージーランド産の牛肉。牧草を食べて育った牛が多いという。牧草育ちの牛肉は、トウモロコシなど穀物育ちの牛肉に比べて硬めでジューシーさに欠ける。
「穀物を多量に消費する穀物飼育の牛よりも、牧草飼育の牛を活用した方が食料資源を有効活用できる」。同社はこうも説明していた。