毎日ステーキ1枚分の細胞が死んでいる

死という観点から見ると、体内の細胞は2タイプに分かれる。古くなった細胞が死んで新しく入れ替わる「再生系」細胞と、同じものがずっと生き続ける「非再生系」細胞だ。

再生系の代表例は皮膚の上皮細胞で、約28日周期で入れ替わる。死んだ細胞は角質化して肌の表面を守り、やがて垢になってはがれ落ちる。

一方の非再生系は、脳の神経細胞が代表例。脳は、神経細胞のつながり具合が記憶などの機能と直結しているため、古くなったからといって簡単に置き換えられない。ひとつの細胞が何十年も生き続け、死んだらほとんど補充されないという。

アポトーシスが起きるのは、再生系の細胞だ。老化によって少しずつ不具合がたまり、日常的な補修では直しきれなくなったとき、細胞は「計画的な死」へかじを切る。そのプロセスは大きく4段階。(1)遺伝子(DNA)を切断 (2)細胞の骨組み(骨格たんぱく質)を切断 (3)細胞を断片化 (4)断片を貪食細胞が食べて掃除──。これで元の細胞はすっかり姿を消す。

「1日に死ぬ細胞の総量は約200g。ステーキ1枚分ぐらいです」と田沼さん。

アポトーシスの特徴は「きれいに死ぬこと」だという。「細胞の中身が漏れないのです。だから炎症が起きず、痛みもありません」。

これは、細胞のもうひとつの死に方=ネクローシスと比較するとよくわかる。ネクローシスは、やけどや打撲などで細胞が傷ついて死に至る、いわば細胞の“事故死”。このときは細胞が膨張して破れ、中身を付近にまき散らす。それが引き金となって炎症反応が起き、痛みや発熱が生じる。

なるほど。やけどが痛いのは、中身がまき散らされるからなのか。通常の新陳代謝であんな痛みが出てはたまらないだろう。そう考えると、アポトーシスは実にありがたいものだ。

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生きるべきか、死ぬべきか 判断を分けるカギは?