睡眠サポートの最新鋭 手軽に記録、目覚ましアプリ人気
よく朝寝坊してしまう、寝付きが悪い、起きた後も眠気が続く――。睡眠について悩みを抱える人は少なくない。忙しい日常生活の中でどう対処するかは悩みどころだが、すぐ活用できるウェブサービスや高機能携帯電話(スマートフォン)のアプリも充実してきている。春からの環境の変化で生活リズムを崩しやすいこの時期、試してみるのもよさそうだ。
睡眠改善にまず必要なのが、自らの現状を正しく把握すること。気軽に取り組めるのが、今年2月に睡眠の専門家らが立ち上げた「睡眠改善委員会」のウェブサイトにある「『かくれ不眠』チェックシート」だ。12項目の設問をチェックしていくだけで、不眠かどうかを確認できる。
「単なる睡眠不足」とつい軽くみがちなちょっとした不眠も放置すれば、集中力の低下など生活に悪影響を及ぼす。「軽度の不眠は20~30代の働き盛りにも多い。ネットで気軽に情報にアクセスしてほしい」とサイトを監修した杏林大学医学部の古賀良彦教授。サイト上では不眠の具体的なリスクや良い睡眠を得る方法なども、やさしく説明している。
つぶやきでも管理
日々記録することも現状を知る手段。ビー・オー・スタジオ(東京・渋谷)が運営する「ねむログ」は、毎日の就寝・起床の時間を簡単に記録できるウェブサイトだ。データはグラフで見やすく表示され、睡眠状況が一目でわかる。昨秋に会員登録した稲葉美紀さん(36)は「就寝時間を意識するようになり、無理な夜更かしをしなくなった」と話す。
会員の記録を集計した統計も閲覧できる。性別や職業から喫煙の有無などまで、属性ごとの平均値がわかり、睡眠への興味も高めてくれそうだ。面倒くさがりな人には、簡易ブログ「ツイッター」で「おやすみ」「おはよう」とつぶやくと時刻が記録できる機能も便利。「病院に提出する記録や社員の健康管理ツールとして使う例もある」(運営者の塚島早紀子さん)など、利用の幅も広がっている。
深さ見極め起こす
スマートフォンにも便利なアプリが増えている。特に人気なのがスウェーデンの会社が開発したiPhone(アイフォーン)用の「スリープサイクル」だ。枕元にiPhoneを置くと、内蔵の加速度センサーで寝ている間の体の動きを計測。眠りの深さを判断し、浅い眠りの時にアラームで起こしてくれる。眠りの深さのリズムを表示する機能も面白い。開発者によると、日本も含め「現在100万人は使っているのではないか」というヒット商品だ。
インデックスのiPhone用アラーム音アプリ「究極の目覚まし音」も、快適な起床を助けてくれそうだ。音声研究を手掛ける日本音響研究所(東京・渋谷)の監修で、人間が目覚めやすいように周波数帯や音圧を設定したメロディーを収録している。従来のアラーム音では起きられないこともあったという沢木慎太郎さん(28)。通勤に約80分かかるため早起きが必要だが、同アプリを3月に使い始めたところ、「かなり耳に響くので、起きざるを得ない」。
同アプリに収録した音は有料版で7種、無料版で2種。「睡眠時の心拍数や呼吸数に合わせてゆっくりと始まり次第に速くなるテンポも、すっきり起きられる工夫」(インデックス担当者)という。
「睡眠のリズムは質の高い社会生活に重要」(古賀教授)だが、現代社会では睡眠障害につながるストレスも多い。便利なネット上の道具を使って現状を把握し、決まった時刻に起きる習慣を付けることで、より良い眠りを追求してみてはどうだろうか。
社会生活の中で睡眠の質を考えることがなぜ大切で、具体的にどう対応すればよいのか。ほかの専門家らと睡眠を啓発する組織「睡眠改善委員会」をつくった杏林大学の古賀良彦教授に話を聞いた。
――「睡眠改善委員会」を立ち上げ、ウェブサイトを開設した狙いは。
「精神科医として睡眠に悩む人が多いことを問題に感じてきた。ただ、ちょっとした不眠ではなかなか手当てしようとは思わないのが実情で、診察に来る人はすでに症状が重い。医師にかからなくても防げる段階で自分の睡眠について問題意識を持ってほしいと考え、『不眠の日』と定めた2月3日に委員会を立ち上げた。ウェブサイトは20~40代の働き盛りの人が気軽にアクセスしやすいよう企画した」
――軽度の不眠のリスクとは。
「良い睡眠がとれないと集中力が下がり、仕事もうまくいかなくなる。それがストレスとなって不眠の症状を一段と悪化させ、ほかの病気も引き起こすという悪循環に陥ってしまうこともある。症状が軽いうちに広い意味での不眠だと自覚することが大事だ」
――現代社会では規則正しく睡眠をとるのも難しくなっているのでは。
「確かに原因となるストレスを取り除くのは難しい。仕事などのストレスがなるべく睡眠に影響しないよう、スポーツや趣味などストレスに対応する方法を見つけるのが大切だ。人それぞれのやり方で取り組めるアロマテラピーなどもよいと思う。良くないのは酒を飲むことで眠りにつこうとすること。よく眠れると感じる人も多いが、決して睡眠の質を高めることにはならない」
「小中高生に携帯電話やパソコンの利用が広がっていることによる睡眠への影響も気になる。便利さの半面、夜中に連絡を取ることへの抵抗感が薄れたことなどで生活リズムが崩れやすくなっている。中高生の時期は生活リズムができあがる大事な時期でもある」
――ほかに医療現場から見て気になることは。
「最近では東日本大震災の後、症状が重くなった患者さんが明らかに増えた。東京でも高層階に住んでいる方で『揺れている気がする』『眠れない』と訴える人が目立つ。うつ病などが悪化した人もいる。睡眠はリズムが大事。東北地方で1次産業にかかわってきた人などは、早寝早起きの理想的なリズムが一気に崩れてしまった。それも心配だ」
――今後の啓発活動で取り組んでいきたいことは。
「睡眠を通じて上手にストレスを解消できるよう情報提供したい。睡眠は脳の健康を考える上での1つの切り口。質の高い社会生活につながる良い睡眠とともに、同じく脳の働きに影響する食についても重要性を訴えたい」
(電子報道部 宮坂正太郎)
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