熟成肉なぜうまい 「腐りかけの肉」と何が違う?

食肉卸ミートコンパニオン(東京都立川市)の植村光一郎常務によると「枝枯らしではドライエイジングでは付着しない微生物もつき、ミソのような香りが出る」。ブルーチーズなど通好みの発酵食品を思い起こせばいい。しかし、ただ寝かせておくだけでは有害な微生物も付着する。これでは単なる「腐った肉」。適切な微生物をいかに付着させるかが熟成のノウハウでありキモとなる。

和牛とは違う魅力 濃厚でまろやか

熟成した乳牛のハンバーグ。香りと深みが出る

バブル期のころまでは枝枯らしにした和牛の需要が多かった。しかし熟成させれば水分が減る分、目方も減る。カビが生える表面は削らなければならず歩留まりは悪くなる。卸値は必然的に4~5割高くなる。和牛は熟成させなくても軟らかい。バブル崩壊後は手間暇やコストをかけてまで和牛を熟成させようという向きは減った。

現在のドライエイジングは和牛より価格の安い交雑牛や乳牛を熟成させることが多い。

小川畜産の高木取締役は「こうした赤身肉の付加価値を高め、和牛とは違う魅力を出せるのが熟成の意義」と話す。確かに乳牛を熟成させた千刻牛のハンバーグを食べてみると、熟成させていない乳牛よりも濃厚でまろやかな趣がある。

熟成肉人気 消費者の赤身志向が背景に

健康志向などで赤身を好む人が増えているのに加え、消費者の肉の食べ方も変化している。

仏文学者の青柳瑞穂は小説家の太宰治や井伏鱒二とすき焼きを食べた時、太宰が貴重な肉をひとりでパクパク食べてしまい、多量のネギやシラタキには目もくれない様子をユーモアを交えながらも、少々あきれ気味に書いている。

ミートコンパニオンの植村常務は解説する。「すき焼きをする時、昔は肉を少しだけ入れて、その脂をほかの野菜にも浸透させて食べていたわけです。けれども今は肉そのものをしっかり食べるようになった。霜降りではたくさん食べられないので、やはり脂の少ない赤身になります」。赤身をおいしく食べるなら熟成の出番だ。

4月中旬から吉野家も熟成肉を採用

JA全農では今月、米ロサンゼルスの高級住宅街ビバリーヒルズに和牛を提供する高級レストランを開く。背景にはサシの多い高級和牛が国内で消化しきれなくなっていることがある。熟成肉の台頭は、和牛霜降りを頂点とする牛肉のヒエラルキーが変わりつつあることの証左でもあるようだ。

大手外食チェーンも活用を始めた。ファミリーレストラン大手のロイヤルホールディングスは「ロイヤルホスト」や「カウボーイ家族」で熟成肉のステーキを提供している。

4月中旬には「吉野家」が牛丼の肉を熟成肉に変える。これまでは港に着いた米国産の冷凍品をそのまま工場に運んで加工していたが、今後は肉が凍る寸前の温度に設定した冷蔵庫で2週間ほど寝かせて加工する。「一般の人でもきっと違いがわかる」(ミートコンパニオンの植村常務)というから楽しみだ。

(商品部 吉野浩一郎)

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