男性管理職も知っておくべき、働く女性の更年期問題と乗り越え方
日経ヘルス プルミエ
働く40代50代女性は増えているのに、更年期に対する理解はまだ十分とはいえません。女性のヘルスケアとキャリアについて詳しい医学博士の有馬牧子さんは「日本企業が女性を長期雇用するようになったのは、雇用機会均等法以降です。更年期の問題への関心が出始めたのは、やっと90年代ごろからですから、企業も更年期への対応には不慣れ。でも、女性の活用には更年期の理解が不可欠です」と指摘します。
■情報不足から誤解が生まれる?
有馬さんが、更年期女性の実情調査のために訪れた北欧では、男性上司が部下の女性の更年期症状に気づくと、更年期かどうかを確認し、必要であれば働き方を助言するといった対応が、ごく当たり前に行われている、といいます。「日本の学校では、月経や出産について、指導したりしますが、スウェーデンでは小学校で初潮から更年期を含め、女性の一生の体の変化を、男女一緒に学びます。こうした教育のおかげもあり、更年期がオープンに語られ、また更年期症状への治療も浸透しています」。
いま日本女性の平均寿命は世界屈指ですが、戦前までは閉経の50歳が平均寿命でもあったのです。「母から娘へと更年期のことを伝える習慣も必要もなかったため、未だに更年期についての正確な情報が十分に行き渡っていないのです」(有馬さん)
情報が少ないだけに、更年期症状というと、イライラや、ホットフラッシュなどのイメージに固定され、集中力の低下や、物忘れ、意欲の低下など、仕事への影響もあるほかの更年期症状について、知らない女性も多いのが現状です。
■男性管理職からも「更年期を知りたい」との声一方、新たな取り組みを始めた企業もあります。社員の8割が女性という資生堂は、2007年から、産業医が各事業所を訪問。まずは女性自身に体の変化を知ってもらおうと、月経から出産、更年期など女性の体の変化について、全世代の女性社員を対象に健康セミナーを開催しています。
さらに、男性社員にもこのセミナーを実施したところ、女性の健康に理解が深まったという大きな反響があり、管理職を中心にもっと女性の更年期について知りたいという声が多く寄せられました。「部下のマネジメントだけでなく、妻の体調管理も含めて、更年期に関心の高い男性は増えているようです。女性の更年期を知ることは、女性だけでなく男性にとっても働きやすい環境づくりにつながると思います」(同社人事部人事企画室長の岡良廣さん)。
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「単純ミス連発」「体調不良で転職」…不調抱える、働く更年期女性の現実は
ある日突然、始まる体の不調。それまで、当たり前のようにこなしていた作業が続けられなくなることへの精神的ダメージ。働きながら更年期を体験した女性たちの本音を聞きました。
CASE1 上司のちょっとした注意にも過敏に Y.M.さん(52歳)食品配送会社/パート
40代後半から立ちくらみやホットフラッシュが始まり、婦人科に通いました。更年期と診断されて漢方薬をのみ始めましたが、夜は眠れず、心療内科で睡眠導入剤と精神安定剤を処方されました。仕事中は、出荷先を間違えて梱包するなど、以前の自分では考えられないような単純ミスを連発。「Mさん、もっとしっかりしなきゃ」といった上司からのちょっとした注意にも過敏に反応しては、「どうして私だけ」と攻撃的になっていました。
夕方の忙しい時間帯に、大量の汗が噴き出したらどうしようかと不安で、毎日職場で精神安定剤を服用。けれど、更年期専門のレディースクリニックで、HRT(ホルモン補充療法)を始めてからホットフラッシュが減り、気持ちも穏やかに。もっと早く専門医を受診すればよかった。
CASE2 体調がすぐれず転職。職を転々と…… K.I.さん(46歳)コンビニ/パート
40歳を過ぎたころから、尋常じゃないイライラに悩まされ、更年期外来へ。"プレ更年期"といわれ、漢方薬の加味逍遥散をのみ始めました。
漢方を始めてからイライラは治まったけれど、疲れがまったく抜けなくなり、フルタイムで働き続けるのは難しくなって転職。でも、体調がすぐれない中、慣れない仕事や、新しい人間関係を築くのが難しく、飲食店や事務、生花店など職を転々としました。今の職場は同僚が同世代の女性ばかり。更年期のつらさは「お互いさま」と助け合っています。
CASE3 過労が引き金? 動悸やのぼせが…… H.Oさん(49歳)介護福祉施設/正社員
42歳のときに子宮筋腫で子宮を摘出後は、体調も良く、自分の健康を過信していました。だから、ケアマネジャーをしながら現場も手伝い、休みなく日勤夜勤を続けるような無茶な働き方をして、過労で入院。2011年の春に今の職場へ移りました。
過労が引き金になったのか、利用者さんのお世話をしているときに動悸やのぼせに悩まされ、婦人科を受診。パッチタイプのHRTを始めてから1週間で、激しい動悸がなくなりました。新しいことが覚えられないときもありますが、若い女性スタッフには「ごめんね、更年期だから物忘れが激しくて」と気楽に構えてこちらの体調を伝えています。
CASE4 分かってもらえないことが、つらい Y.Aさん(45歳)翻訳・英文事務/契約社員
42歳からめまいがするようになり、仕事に集中できなくなりました。おかげで、全体的に仕事のスピードが下がり、「なんでこんなことに」と自信をなくし、職場の同僚に相談。ところが、「気にしすぎだよ」「気持ちを強く持てば大丈夫」などと、しった激励されるばかり。症状について理解してほしかったのに、逆効果でした。
まだまだ子どもにも手がかかり、自分のことが後回しになりがちでした。今は、毎日大豆を食べたり、定期的に運動したり、アロマテラピーを取り入れるなど、更年期に良いといわれることを実践し、日々の不調をやり過ごしています。
CASE5 メニエール病に続きホットフラッシュが T.Yさん(53歳)メーカー・営業事務/正社員
45歳のころ、会社の組織変更で徹夜で働く日々が続きました。その後、メニエール病を発症し、めまいと耳鳴りが。それが落ち着いてきたら、50歳を前にホットフラッシュが始まりました。社内の女性の中で最年長の私には同僚もおらず、相談相手もいません。男性は「40を過ぎた女性はオバハン」という態度が見え隠れ。でも、若い子は大きな声で生理の話をしているから、彼女の時代は更年期もオープンな話題になるかも。
「日経ヘルス プルミエ」調査への回答より
1 「イライラから職場で我慢できなくなり、怒鳴ってしまった」
2 「特に上司と話をしているときにホットフラッシュになる」
3 「物忘れがひどい。今考えていることを3歩進むと忘れたりする」
4 「体調が悪いのに、仕事をしていたらミスしてしまった」
5 「数を間違えてアルバイトをやめさせられた」
6 「出張中に突然、大量の出血があって困りました」
更年期問題には、男性社員の理解が不可欠、女性たちも正しい知識で備えて
企業で長く働き続けることは、ごく当たり前になってきました。しかし、日本企業にとって、更年期の女性を多数抱えるのは、歴史上初めての経験。そのための体制づくりは始まったばかりです。「不調を抱えたまま働き続けられるの?」と不安を感じる人も多いでしょう。だからこそ、働く女性は自分自身が更年期をどう迎えるかの「know&manage(知識と対処法)」が必要だと、私は考えています。
たとえば、ホットフラッシュなどと違い、物忘れや集中力の欠如といった更年期の不調は、女性の間でもそれほど知られてはいません。こういう状況に陥って仕事に対する自信を失うのは、とてもつらいことです。しかし、このような不調も婦人科や更年期外来などでの適切な治療によって、大幅に改善することが多いのも事実。正しい知識を得て、対処法を事前に分かっていれば、仕事を続けられなくなるようなケースは確実に減るのではないでしょうか。
更年期の不調には個人差があります。私自身は「体調が思わしくない」という程度でしたので、ホルモン補充療法などの治療を受けることはありませんでした。もし仕事に大きな影響が出るような不調があったら、迷わず更年期外来を受診したと思います。生活習慣病など、ほかの病気と同様に、更年期障害も「自らケアする」という姿勢が大事です。資生堂では、ライフサイクルにおける女性の体調変化を学ぶ健康セミナーを定期的に開催するほか、健康相談窓口など、働く女性を応援する体制づくりも進めています。
1986年に施行された男女雇用機会均等法当時に入社した女性たちが、今ちょうど更年期です。
当社を含めて企業側の今後の課題は、女性社員はもちろんのこと、男性社員、特に管理職に更年期の理解を促すことです。当人の症状がつらいのに「がんばれば乗り越えられる」という精神論や、「誰もが通ることだから」と無理解な態度では、優秀な人材が離れてしまいます。年齢や性別を問わず、時間当たりの生産性に着目し、公平・公正に評価できる組織づくりをしなければなりません。一方、女性も年齢を問わずキャリアアップを目指し、自分自身の能力と仕事の質を向上させていく努力が必要です。
この10年で、育児休業制度や時短勤務など、女性にとって働きやすい労働環境の整備が進んできました。今後ますます女性が活躍できるチャンスは増えていくことでしょう。更年期について、適切な対処法を学び、自らの手でより良いこれからをつくり上げてください。更年期と仕事の両立はきっとできます。(談)
(日経ヘルス プルミエ 村上富美、ライター 東海左由留、川崎美津子)
[日経ヘルス プルミエ2012年冬号の記事を基に再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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