23歳以上の男女は全員風疹ワクチン接種の検討を
風疹の罹患者は2013年3月時点ですでに2012年の1年分の患者数を上回り、妊婦の罹患も報告されるなど大きな社会問題に(図1)。
妊娠初期の女性が風疹にかかると、風疹ウイルスが胎児にも感染し、出生後に後遺症をもたらす。これが先天性風疹症候群。先天性風疹症候群の3大症状は先天性心疾患(動脈管開存症などの心奇形)、白内障、難聴だ。
もし、妊娠中に風疹にかかったと分かったら、まずは落ち着いてかかりつけの産婦人科医に電話で相談を。横浜医療センター母子医療センターの奥田美加部長は「先天性風疹症候群のリスクは、妊娠週、風疹の症状、ウイルス量などで大きく異なる」と話す。報告により若干の差があるが妊娠4~6週ではほぼ100%で何らかの先天性風疹症候群の症状が見られるとされ、7~12週で80%、13~16週で45~50%に。ただし、17~20週では6%に低下する。
妊娠した女性(特に妊娠3カ月以内)が風疹にかかるとウイルスが胎児に感染し、発育に影響が出る可能性がある。
1. 先天性心疾患
軽度の場合は自然治癒。そうでない場合は可能な時期に手術治療を行う。
2. 白内障
手術が可能になった時期に、濁り部分を取り除く手術を行う。人工水晶体を使用することもある。
3. 難聴
難聴の程度はさまざまで重い場合もある。治療法として、人工内耳が開発され、乳幼児にも応用されつつある。
ワクチン接種による風疹の予防が重要
風疹はワクチン接種を受けた人、一度かかった人でもまれに感染することもある。ただし初めて感染した場合に比べ、先天性風疹症候群のリスクは低い。「残念ながら、風疹にかかってしまった妊婦さんに行える先天性風疹症候群の発症予防法はありません」と奥田部長。
子供に先天性風疹症候群の後遺症が出た場合、心疾患や白内障では発育の状況を見ながら手術治療を行う。難聴は重症になるケースも多いが、最近では人工内耳による治療が乳幼児にも応用されつつある。
だからこそワクチン接種による風疹の予防が重要だ。風疹の根絶のためには高い接種率とワクチンの2回接種が鍵で、日本では2006年からようやく定期接種としての麻疹風疹混合ワクチン2回接種が始まった。
ワクチン接種後、女性は2カ月の避妊が必要。しかし、過去の臨床報告では、気づかずに妊娠していた場合に先天性風疹症候群を発症した例はない。
【ワクチンの種類】
風疹だけを予防する「単独ワクチン」と風疹、麻疹(はしか)の「混合(MR)ワクチン」がある。混合ワクチンは生産量が多いうえ、風疹の免疫がない人は麻疹の免疫もないことが多いため、成人には混合ワクチンが薦められる。
【接種費用(助成)】
単独ワクチンは4000~8000円。混合ワクチンは7000~1万2000円程度とされるが、地域で異なるので医療機関などに問い合わせを。市区町村によっては助成制度があり、無料で受けられることも。地域の保健所に問い合わせを。
【注意点】
3日~1週間前に、かかりつけ医などの医療機関に予約すれば誰でも接種できる。市区町村によっては、小児科でないと助成制度を利用できないことがあるので事前に確認しよう。
患者の7割以上は成人男性
特に今の風疹大流行の主役は20~40代男性。図2の国立感染症研究所感染症情報センターが発表した5月8日の集計では、2013年の患者数の累計は5964人(男性4627人、女性1337人)。3カ月で2012年1年分の患者数2392人を超えた。その7割以上が20代以上の男性だ。
この世代の男性は「幼少時に風疹にかかっておらず、2回の接種も受けていない人」が多く、風疹に対する抗体価が低い人が多い。時代とともにワクチン接種制度は変わり、制度移行期にあたる25~34歳の人では、接種しそこなった人が多いからだ(図3)。
「ワクチンを1回以下しか受けていない妊娠前の女性はもちろん、家族や職場の妊婦に感染させる可能性を考えれば、男性も積極的にワクチン接種してほしい。女性は接種後2カ月の避妊が必要。ただし、もし2カ月以内に妊娠が判明しても赤ちゃんに影響が出た例は世界的にない。一方、男性の避妊は不要」と奥田部長は話す。
この人に聞きました
国立病院機構横浜医療センター産婦人科部長。周産期医療の専門家。「先天性風疹症候群(CRS)を減らすために先進国では風疹ワクチンの接種を徹底してきた。日本も今、風疹撲滅を目指すべきです」
(科学ライター 荒川直樹)
[日経ヘルス2013年7月号の記事を基に再構成]
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