横綱は「半沢」と…13年エンタ番付に見る3つの新潮流
日経エンタテインメント!
エンタテインメント(エンタ)界で2013年にヒットした作品や人は何か。2013年12月4日、日経エンタテインメント!が年末恒例の「ヒット番付」を発表した(図1)。これはテレビ番組、音楽、映画、本、ゲームソフトなど、オールジャンルのエンタテインメントを対象に、セールス(視聴率、パッケージ売り上げ、イベント動員など)、新規性(業界にとって、自身にとってどれだけ新しい取り組みをしたか)、社会影響度(メディアへの露出、ファンやユーザーへの影響はどれくらいあったか)などに基づき、ヒットの度合いを評価したものだ。
東と西の両横綱に選ばれたのは「半沢直樹」と「あまちゃん」。ともに一大ブームを巻き起こした国民的ドラマだ。
平成トップの「半沢」、新しい朝ドラ切り開いた「あまちゃん」
堺雅人が主演した2013年7月期の連続ドラマ(連ドラ)「半沢直樹」(TBS系)は、最終回の平均視聴率が42.2%を記録。今年の連ドラトップはもちろん、平成に入って放送されたテレビドラマ中でも1位のヒットとなった(図2)。
主人公・半沢の決めゼリフ「倍返しだ」は流行語に。原作本となる「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」の発行部数は、ドラマ放送前の2作累計50万部から、250万部まで伸びた。
物語の舞台はメガバンク。主人公の半沢は「人の善意は信じるが、やられたら倍返し」が信条の、曲がったことを嫌う銀行員。身勝手で不毛な上司や融資先に対し、筋を通すべきところは啖呵(たんか)を切り、社内外の仲間と共に知略を巡らせ、逆境をはねのけていく。上司も取引先も悪党は次々に懲らしめる痛快さが、見る者を魅了した。
一方、NHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」は、国民的番組と評されるほどの一大ブームを巻き起こした(図3)。番組終盤の9月には最高視聴率27.0%を記録。期間平均視聴率20.6%は、過去10年では「梅ちゃん先生」(同20.7%)に続く僅差での2位だ。
宮藤官九郎ならではのテンポの速い、明るいコメディータッチの脚本は、新しい朝ドラ視聴者を開拓。後半の東京編で80年代のアイドル・音楽業界が描かれたこともあり、中高年男性の関心を高めた。
この2大メガヒット作を筆頭に、番付で今年のヒットを振り返ると、エンタ界の歴史的な変化ともいえる3つのトレンドが浮かび上がった。それを順に見ていこう。
トレンド1:スター依存から企画重視へ
今年のヒット番付には歴史的な変化があった。例年トップは、嵐やAKB48など人気者たちが占めていた。だが、今年は「半沢直樹」「あまちゃん」と、作品が横綱に輝いたのだ。日経エンタテインメント!が選ぶヒット番付で作品がトップになったのは、2002年に興行収入200億円を超えた映画「ハリーポッター」以来のことだ。
タレントは一度人気を獲得すれば、その人気は簡単には下がらない。そのため人気者には良い企画や優れたスタッフが集まり、ヒットを続けることができる。それに対し、作品は毎回ふたを開けるまでヒットするか分からない。
そんななか、今年はスターに頼ることなしに「半沢直樹」「あまちゃん」が大ヒットした。スターの人気を、知恵を絞った作品が超えたのだ。人々は従来の延長線上にある作品に物足りなさを覚え、新しい刺激を求め出したようだ。今後は、人気者の争奪戦よりも企画力の競争が激しくなる。
トレンド2:自然さから非日常性へ
ヒット作の多くに見られたのが派手さや大仰さだ。「倍返し」「じぇじぇじぇ」「私、失敗しませんから」などのセリフや、土下座や「今でしょ」のポーズなど、冷静に考えるとオーバーに思えることがもてはやされるようになった。
自然な演技や力の抜けた姿勢が好感度を集める時代を過ぎ、わざとらしいくらいの大仰さが人気を集めそうだ。
トレンド3:国内志向から世界志向へ
今回の番付で目につくのが、ワン・ダイレクションやベネディクト・カンバーバッチの海外勢。映画の興行成績でも、「レ・ミゼラブル」や「テッド」などの洋画が上位に入った。国産で十分と感じていたものが、世界を視野に入れるようになってきたように思える。
ワールドツアーに出たきゃりーぱみゅぱみゅやノーベル賞の期待が高い村上春樹など、世界で評価される人たちへの人気が高まっている。クールジャパンや五輪招致など、今や世界を意識せざるを得ない状況が生まれている。長く「内向き志向」と言われてきた日本だが、これからは世界を意識した"日本"が尊敬を集めそうだ。
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現在、日本のエンタテインメント界では大きな変化が次々と起きている。アニメ界の巨匠・宮崎駿が引退を宣言し、「笑っていいとも!」や「はなまるマーケット」といった長寿番組の終了が発表された。テレビをリードしてきたフジテレビの視聴率が低迷する一方、テレビ朝日は初の視聴率3冠王を目指し好調が続いている。プロ野球では最古の球団巨人を、球界に参入して最も日の浅い楽天が破り、日本一に輝いた。大震災を心に留めつつも、前に進み出したのが2013年であるようだ。
(日経エンタテインメント! 編集部)
[日経エンタテインメント! 2014年1月号の記事を基に再構成]
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