開会式の主役はアレンとベルトルッチ
カンヌ映画祭リポート2011(3)
第64回カンヌ国際映画祭が11日、いよいよ開幕した。明け方は少し肌寒いが、快晴だ。
今年のオープニング上映はウディ・アレン監督の「ミッドナイト・イン・パリ」。ハリウッドと西海岸が嫌いで、ずっと生まれ育ったニューヨークで映画を撮り続けてきたアレンが、ヨーロッパに撮影地を求めたのは2005年から。ロンドン(「マッチポイント」)、バルセロナ(「それでも恋するバルセロナ」)に続き、パリを撮った。
午後1時に開かれた記者会見。アレンはいつものようにベージュのチノパンに青いシャツという典型的なニューヨーカーのスタイルで現れた。「なぜパリで撮ったのか」と聞かれると、ひじをついたまま「パリはエキサイティングな街。ニューヨークと同じように世界中から人が集まっている。とりわけ雨のパリはきれいだ」と答えた。
アレンは映画の中でもいつもこのスタイルで登場する。別の俳優が彼の分身を演じる場合もそうだ。「ミッドナイト・イン・パリ」のオーウェン・ウィルソンも、まったく同じスタイルで現代のパリを歩き回る。
ロマンチックコメディーである。ウィルソン演じるアメリカ人作家のギルと婚約者は、出張中の両親とともにパリに滞在している。2人の間にすき間風が吹き、独りになったギルは夜のパリで道に迷う。そしてあっと驚く人々と次々に出会う。
作家のアーネスト・ヘミングウェイ、スコット・フィッツジェラルド、ガートルード・スタイン、画家のパブロ・ピカソ、サルバドール・ダリ、映画監督のルイス・ブニュエル、写真家のマン・レイ……。1920年代に米国をはじめ世界各国からパリに集った芸術家たちだ!
これがまあ、どれも似ている。顔がというより、所作や表情や話し方がそっくりなのだ。狂おしげなダリ、熱く見つめるマン・レイ、無愛想なブニュエル。いかにもそれらしいことを話すので、それだけで笑える。
要は形態模写のオンパレードなわけだが、無論アレンのこと、それだけでは終わらない。様々なイコン(聖像)が物語るパリ、というのがこの映画のテーマなのだ。ギルをはじめとする現代人の心象風景を形成する様々なイコン。そのイコンというものを描き出すのに、何事も具体的に表現する映画という芸術はうってつけなのだろう。
様々なイコンの森を旅するギルの服装が、ニューヨーカーのアレンと同じなのは必然だ。ギルがこの格好でセーヌ河岸を歩く場面はポスターにとられているが、背景の空がゴッホの「星月夜」になっている。パリの異邦人であるアレンの開き直りと照れ、そして、あこがれが透けて見える。
夜の開会式ではイタリアのベルナルド・ベルトルッチ監督に、カンヌ映画祭のジル・ジャコブ会長から名誉賞「パルムドールドヌール」が授与された。同賞は過去にパルムドールを獲得しなかった巨匠をたたえるもので、近年はウディ・アレンやクリント・イーストウッドが受賞している。今年以降は毎年受賞者を決め、開会式で贈呈することになった。
「暗殺の森」「ラスト・タンゴ・イン・パリ」の名匠は車いすで記者会見に臨んだが、意気盛んだった。次回作に3D映画を企画しており「テストを始めたところ」と語った。
中国の記者からは「中国の現代映画をどう見るか」、ブラジルの記者からは「ブラジルのシネマノーヴォをどう思うか」という質問が飛んだ。フランスのヌーベルバーグに続いて60年代に登場し、90年代には中国で「ラストエンペラー」を撮ったベルトルッチ。その影響力は想像以上に大きい。
同じ名誉賞を先に受けたウディ・アレン、「1900年」で主演した審査員長のロバート・デ・ニーロ。2人が居合わせる主会場のグラン・テアトロ・リュミエールで、ベルトルッチが高らかに開幕を宣言した。
(編集委員 古賀重樹)
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