強いチームは多様なメンバーが生む 南場智子氏
実は今日、すごくアウェー感を感じている。なぜなら、私は女性であることや、男女という枠組みで物事を捉えることが凄く苦手だからだ。女性の社会進出に関するテーマを話すということだが、案配が非常に悪い。
私は女性に教育は必要ないという考えの父に育てられた。家庭のなかで母親はお手伝いさんのような感じで、全て重要なことは父が決める家だった。自転車を買うことさえ自分では決められない、非常に窮屈な環境で、家から飛び出したいと思っていた。
大学生になり東京へ出た1980年代は、女性の社会進出が大きな議論になっていた時代だった。女性解放を求めて激しく運動する女性、それを阻止しようとする女性、反対しようとする男性、応援する男性がいた。その様子を眺めながら、個人的には、誰に対しても大きな共感を覚えられなかった。
就職した会社は、男女が全く隔たりなく仕事ができる環境だった。そこで、初めて解放されたような気持ちになれ、一生懸命働くことができた。結婚もした。思い出されるのは、夫の実家に行った時のエピソード。大きな魚を切り分けてもらい喜んでいると「丈夫な子供を産んでね」といわれた。その場で、夫の両親に不快感を表したのを覚えている。それ以来、何もいわれず自由奔放に過ごしている。その後、起業。社会に出ると家庭のなかとは全然違って、女性でやりにくいと感じたことは一度も無かった。
ただ、もし子どもがいて、子どもに没入するという選択肢があったならば、少し違っていたかもしれない。だが、子どもを産んで一人前とは思っていない。産まなければ得られない経験はたくさんあるけれども、夫婦だけで暮らすということもそれなりの経験だと思う。優劣は無いはず。
経営者になったとき、出産をはじめ女性としてのライフイベントには手厚く対応したいと思っていた。会社が黒字化したときに子ども手当制度を始めたのは自慢。もちろん会社が働いてほしいと選んだ人なら、育児で時短勤務や休暇を取ることは、男性も女性も関係なく大いに奨励したい。
ただ、女性のマネジメント層を増やすために昇進を決めたことはない。男女である以上に大きな違いは、仕事ができるかできないか。人事では、ベストな人材が実力と実績で曇り無く選ばれるべきだ。少しでも曇りがあると、その人事はゆがんでしまう。
経営者の見方としては、男女や国籍、文化的な背景など、多様なメンバーで構成されているチームの方がうんと強い。多様であればあるほど底力は強い。似たようなメンバーによる組織は、まとめやすいが変化に弱い。改革にも弱い。それは事実。経営者にとっては多様なチームをどうやってマネージしていくかという事が、非常に大きなポイントになる。特に、モチベーションの源泉が違うメンバーをまとめることが難易度が高い。
会社を立ち上げたころ、「ほめられたい」「お金がほしい」「ユーザーのためのサービスを作りたい」「技術が認められたい」など別々の動機を持った4人のメンバーがいた。そのチームをまとめた時の経験が強く印象に残っている。会社として初めてのサービスを世に出したとき、皆が笑顔になり、純粋な高揚感に包まれた。それ以来、目標が達成できた時の高揚感で組織をまとめていこうと考えるようになった。
個人としても、チームや自分の目標に向かって純粋に集中してみると、充実した人生が送れるのではないかと思っている。
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